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送り出し機関を企業が選ぶ際に重要なポイント:チェック項目と認定要件を整理

外国人材を特定技能や技能実習制度で受け入れる際、企業が頼りにすべき送り出し機関(送出機関)は、選び方を誤るとトラブルの原因にもなります。本記事は、企業がチェックすべき具体的ポイント(政府認定状況・教育体制・費用適正・継続供給力など)や、送り出し機関の認定要件、実績ある機関の特徴、さらに避けるべきリスクや不適切な事例を整理して解説します。安心して外国人を採用・定着させたい企業の担当者様に役立つ内容です。

1. 送り出し機関とは?

送り出し機関(送出機関)とは、外国国籍者を母国で募集し、日本で働きたい方を対象に選抜・教育・送出までを担う組織です。技能実習制度や特定技能制度など、複数の在留資格に対応し、出国前教育や契約書手続きのサポートも行います。ただし、特定技能では必ずしも利用義務はなく、国や制度によっては企業が直接採用できる場合もあります。
「送り出し機関」と聞くと、技能実習制度をイメージする方が多いかもしれませんが、本来は技能実習に限らず、特定技能や技術・人文知識・国際業務など、さまざまな在留資格での人材送出にも関わっています。

技能実習制度における送り出し機関の役割と認定要件

技能実習制度には「団体監理型」と「企業単独型」がありますが、このうち団体監理型では、送り出し機関の利用が必須です。

団体監理型では、送り出し機関は以下のような役割を担います。

  • 日本で実習を希望する候補者の募集と選抜(年齢、学歴、日本語力、技術などを考慮)
  • 日本入国前の教育の実施(日本語や生活習慣、マナーなど)
  • 渡航手続きのサポート(ビザ申請や航空券手配など)
  • 実習中・帰国後のフォローアップ支援

これらを適正に行うため、送り出し機関は認定制となっており、法令(規則第25条)に基づいた要件を満たす必要があります。

【送り出し機関の要件】

規則 第25条における外国の送出機関の要件(概略)

  • 所在する国又は地域の公的機関から推薦を受けている
  • 制度の趣旨を理解して候補者を適切に選定し、送り出す
  • 技能実習生等から徴収する手数料等の算出基準を明確に定めて公表し、技能実習生に明示して十分理解させる
  • 技能実習修了者(帰国生)に就職の斡旋等必要な支援を行う
  • 法務大臣、厚労大臣又は外国人技能実習機構からのフォローアップ調査、技能実習生の保護に関する要請などに応じる
  • 当該送出機関又はその役員が、日本又は所在国の法令違反で禁錮以上の刑に処せられ、刑執行後5年を経過しない者でない
  • 当該送出機関又はその役員が、過去5年以内に

–保証金の徴収他名目を問わず、技能実習生や親族等の金銭又はその他財産を管理しない(同様の扱いをされていない旨 技能実習生にも確認)

–技能実習に係る契約の不履行について違約金や不当な金銭等の財産移転を定める契約をしない(同様の扱いをされていない旨 技能実習生にも確認)

–技能実習生に対する人権侵害行為、偽造変造された文書の使用等を行っていない

  • 所在国または地域の法令に従って事情を行う
  • その他取次に必要な能力を有する

出典:外国人技能実習制度とは|JITCO

上記の要件をお満たすと技能実習生における送出し機関に認定されます。

特定技能制度における送り出し機関の役割

一方、特定技能制度では、技能実習のように送り出し機関の利用が必須ではありません。企業が海外から直接人材を採用することも可能です。

しかし、国によっては送り出し機関の利用が義務化されている場合があります。たとえば、フィリピンやベトナムなどでは、政府が認定した送り出し機関を通じてのみ特定技能人材を日本に送り出すことができます。国別の取り決めを事前に確認しておくことが重要です。

外国人を採用する際、送り出し機関を必ず利用する?

技能実習制度を利用する際は必ず海外の送り出し機関を通す必要があり、送り出し機関を利用しないという選択肢は基本的にありません。また、特定技能制度でも、国によっては政府が認めた送り出し機関を通すことが義務づけられている場合があります。そのため、外国人を採用するうえで送り出し機関の存在は非常に重要です。

一方で、送り出し機関を使わずに外国人を採用する方法もあります。たとえば、すでに日本国内に住んでいる外国人を採用する場合です。
このケースでは、すでに日本に来ているため、送り出し機関を利用する必要はありません。
また、特定技能制度では、外国人の転職が認められているため、別の企業で働いていた特定技能外国人を新たに雇うことも可能です。これに対し、技能実習制度では原則として転職はできず、やむを得ない場合のみ「転籍」という形で変更が認められるにとどまります。

【重要】外国人雇用に関わる「二国間協定」とは?

外国人を採用する際に重要となる「二国間協定」とは、日本と外国(送出国)との間で結ばれる公式な取り決めのことです。この協定は、外国人雇用をスムーズに進めること、そして外国人労働者を不当な扱いから守ること(悪質な仲介業者の排除など)を目的としています。

この協定は、主に「技能実習制度」や「特定技能制度」に関して締結されています。具体的には「技能実習に関する協力覚書」や「特定技能に関する協力覚書」という形で取り交わされています。

現在、日本と協定を結んでいる国は以下の通りです。

【協定を締結している国一覧】

  • フィリピン
  • カンボジア
  • ネパール
  • ミャンマー
  • モンゴル
  • スリランカ
  • インドネシア
  • ベトナム
  • バングラデシュ
  • ウズベキスタン
  • パキスタン
  • タイ
  • インド
  • マレーシア(特定技能のみ)
  • ラオス
  • ブータン(技能実習のみ)
  • キルギス(特定技能のみ)

なお、技能実習制度における「認定送り出し機関」の一覧は、外国人技能実習機構の公式サイトで確認できます。

外国政府認定送出機関一覧|外国人技能実習機構
技能実習に関する協力覚書|厚生労働省
特定技能に関する協力覚書|出入国在留管理庁

2. 送り出し機関にかかる費用・手数料の目安

送り出し機関は、監理団体や人材紹介会社、受入れ企業から手数料を受け取るだけでなく、それとは別に外国人本人からも費用を徴収しています。

技能実習生が実際にどれくらいの金額を送り出し機関に支払っているかについて、出入国在留管理庁が公表した調査結果を確認してみましょう。

出典:技能実習生の支払い費用に関する実態調査について(結果の概要)|出入国在留管理庁

この調査によると、技能実習生の中には、送り出し機関だけでなく仲介業者などに対しても費用を支払っているケースがあり、最終的な負担額は平均でおよそ54万円(日本円換算)にのぼります。

日本よりも物価や賃金が低い国で生活する彼らにとって、これはかなり大きな金額です。仮に全額を借金でまかなっていた場合、日本での実習中にこの借金を返済するのは、非常に大きな負担となることが容易に想像できます。

3. 送り出し機関にまつわる課題と技能実習生の失踪問題

近年、ニュースなどで頻繁に報道されている「技能実習生の失踪」には、制度そのものの構造的な問題と、送り出し機関の在り方が深く関係しています。

技能実習制度では、原則として「転職(転籍)」が認められていません。そもそも就労ではなく「技能を学ぶための制度」とされているため、職場を変えるという選択肢が制度上想定されていないのです。

そのため、たとえ受け入れ企業側が法令に違反した働かせ方をしていたり、過剰な労働を強いていたとしても、実習生が自由に職場を変えることは基本的にできません。(企業側の都合による場合など、一定の条件下では「転籍」という形で他の企業に移ることが可能です。)

加えて、実習生の中には送り出し前に多額の借金を抱えているケースもあり、「働かないと返済できない」というプレッシャーから、やむを得ず失踪してしまうケースもあります。

なお、技能実習法では違約金を徴収することは禁止されていますが、現地ではそのルールが徹底されていないこともあります。

こうした問題に対応するため、日本政府は送出国と「二国間の協力覚書(MOC)」を結び、送出国による送り出し機関の認定制度を導入。また、問題のある送り出し機関の情報を共有し、排除する取り組みを進めています。

しかし現状では、違法な雇用を続ける受け入れ企業や、不正な送り出しを行う悪質な機関も依然として存在しています。そのため、技能実習制度全体に対し、国際社会から「人権侵害の懸念がある制度」として厳しい目が向けられているのが現状です。

4.送出し期間の選び方

送り出し機関を選ぶ際は、以下のような点を確認すると安心です。

企業が確認すべきチェックポイント

外国人材の受け入れにあたり、適切な送り出し機関を選ぶことは非常に重要です。以下のような項目を事前にチェックしておくと、トラブルを未然に防ぐことができます。

  • 政府認定の有無:現地政府から公式に認定されているかを確認します。
    認定されていない機関を利用すること自体は違法ではありませんが、認定機関のほうが安心感があります。
  • 規模や紹介実績:安定的に人材を供給できるか、候補者数や教育担当者の経歴を確認。
    過去の送出人数や現在紹介可能な候補者の人数、教育担当者の経歴(たとえば日本での就労経験があるかなど)もあわせて確認するとよいでしょう。
  • 教育内容:日本語・マナー・業務内容の教育を適切に提供しているか。
    候補者に対して、入国前にどのような教育を行っているかも見ておきたいポイントです。日本語能力や日本での生活ルール・マナーはもちろん、技能実習や特定技能に関連する専門知識についても、基礎教育を実施してくれる送り出し機関が望ましいです。
  • 費用の透明性と妥当性:外国人が支払う手数料が法令で定められた上限内かどうか。
    送り出される実習生や特定技能外国人が支払っている費用が、国の上限基準内で適正かどうかも確認しましょう。過剰な費用負担は、労働者の離脱やトラブルの原因になりかねません。
  • 窓口担当者の日本語能力:誤解を避けるため、企業とのコミュニケーション能力も見るべき点。
    現地の窓口担当者の日本語能力も、意思疎通に大きく関わります。日本語が不得意な担当者だと、企業とのやりとりに誤解が生じやすくなってしまいます。
  • 安定供給体制の確認:長期的に一定数の人材を紹介できる体制が構築されているか。
    今後も継続的に人材を受け入れる予定がある企業は、その送り出し機関が安定的に人材を供給できる体制が整っているかどうかも確認しておきましょう。初回は問題なく対応できても、途中で紹介が止まるケースもあります。
  • 日本国内の拠点有無:特に技能実習制度では、国内に駐在事務所などがあることが安心感に。
    技能実習制度を活用する場合、送り出し機関が日本国内に支社や駐在事務所を持っているかも重要です。トラブルが発生した際に、監理団体と連携して迅速に対応できる体制があると、より安心です。日本国内で母国語で相談できる窓口があるのも、実習生にとっては心強いでしょう。

これらの点が実際に当てはまるかどうかは、直接ヒアリングすることでしか確認できません。特定技能制度を利用する場合は、送り出し機関または仲介している人材紹介会社に詳細を尋ねてみてください。

技能実習制度では、企業が直接送り出し機関とやり取りするのは難しいため、監理団体を通じて確認することになります。監理団体は送り出し機関の選定も担っており、制度全体の要でもあります。コンプライアンスを守っているか、役割をしっかり果たしているかどうかも見極める必要があります。

一方で、特定技能外国人の受け入れに際して企業が直接送り出し機関とやり取りする場合は、上記の点を自社で確認する必要があります。ただし、こうした調査にはどうしても時間と手間がかかるため、すでに送り出し機関を見極めた上で紹介してくれる信頼ある人材紹介会社を利用するという方法も検討に値します。

フィリピン国籍の方を採用する際の注意点

フィリピン人材を技能実習や特定技能などの就労ビザで受け入れる場合には、フィリピン政府の厳格な規定を遵守する必要があります。

■ MWO(旧POEA)認定エージェントを通じた採用が必須

フィリピンでは、技能実習や特定技能を含む海外雇用において、MWO(海外労働事務所:旧POEA)に認定された現地エージェントを介さなければ、正式な雇用手続きができません。
これは、すでに日本国内に在留しているフィリピン人であっても同様です。MWOの手続きを経ずに雇用契約を結んだ場合、違法雇用と見なされるリスクがあります。

■ 公認人材会社との契約が必要

フィリピン政府(DMW:海外労働者庁)から

認可された現地の人材紹介会社と契約を締結し、その上で人材を受け入れる必要があります。
手続きには、受け入れ企業と送り出し機関の双方の書類提出が必要で、契約内容にも一定のルールがあります。

■ 英語での面接・事前審査が義務

受け入れの際は、駐日フィリピン大使館(または大阪のフィリピン総領事館)に対して必要書類を提出し、受け入れ企業が英語による面接を実施することが義務付けられています。

これらの手続きはすべて、受け入れ前に完了していなければなりません。

フィリピン人材採用には専門的な知識が必要

フィリピン人の雇用は、他国に比べて手続きや審査が厳しく、事前の準備や正確な対応が求められます。ノウハウがない状態で進めようとすると、書類不備や面接不通過などのトラブルにつながりかねません。

そのため、以下の対応を検討すると良いでしょう。

  • 実績のある人材エージェントに相談する
  • フィリピン以外の国からの受け入れも選択肢に入れる

制度を正しく理解し、信頼できるパートナーと連携することで、スムーズかつ合法的にフィリピン人材を受け入れることが可能になります。

5. 効果的な利用方法と提携の注意点

送り出し機関を活用する場合、効率的かつ安全に運用するために企業側で考慮すべき点:

二国間協定がある国(例:ベトナム、フィリピン、カンボジア、ミャンマー)から採用する場合、現地政府認定の機関を利用する必要があり、契約や手続きも複雑化します。事前確認が必須です。

採用支援会社や紹介会社の利用により、事前に信頼できる送り出し機関を選定されている体制なら、企業の負担を軽減できます。

監理団体の役割と連携も重要:特に技能実習生受入時、監理団体が機関選定に関与しているため、監理団体自身の実績やコンプライアンス対応も確認すべきです。

7. まとめ

送り出し機関は、外国人材の募集・教育・送出を担い、企業の採用を円滑化する重要な存在です。
政府認定状況、教育体制、費用透明性、安定供給力などを企業がしっかりチェックすることが不可欠です。
認定要件を満たす機関は、法令遵守や教育体制、帰国後支援などの体制が整っているため安心です。
不適切な送り出し機関は、高額請求やフォロー不在、経歴不一致などのリスクを抱えるため避ける必要があります。
二国間協定のある国から採用する場合には、特定の認定機関を経由した手続きを行う必然性がある点も企業が認識しておくべき重要事項です。

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