外国人材の雇用は、現代の企業経営において重要な戦略の一つとなっています。しかし、外国人を採用する際には、日本人を雇用する場合とは異なり、入管法をはじめとする様々な法令に基づいた適切な手続きや確認が不可欠です。
特に重要なのが、外国人の身分証明書であり、日本での滞在資格を証明する「在留カード」の確認です。
この在留カードには、日本に滞在できる資格や就労の可否に関する重要な情報がすべて集約されています。
本記事では、外国人雇用を検討している企業の担当者様向けに、在留カードの基本的な知識から、雇用時に必ず行うべき確認方法、さらに増加傾向にある偽造カードを見破るための具体的なチェックポイントまでを、徹底的に解説します。
在留カードに関する正しい知識を身につけ、不法就労を未然に防ぎ、法令を遵守した安心・安全な外国人雇用を実現しましょう。
1. 在留カードの基本とその役割
在留カードは、日本に中長期的に滞在する外国人に対して、上陸許可や在留資格の変更、在留期間の更新などが認められた際に、出入国在留管理庁長官によって交付される非常に重要な身分証明書です。
在留カードを所持している外国人材は、日本に合法的に滞在し、それぞれの在留資格で定められた範囲内の活動を行うことが許可されています。このカードの確認は、適法な外国人雇用を行う上での基本中の基本となります。

そもそも在留資格とは
「在留資格」とは、外国人が日本に滞在して行うことができる活動、あるいは日本に滞在可能な身分を類型化したものです。
現在の日本の入管法では、「技術・人文知識・国際業務」「特定技能」「永住者」など、約30種類の在留資格が定められており、それぞれの在留資格によって、日本で行うことが許される活動内容や期間、そして就労の可否が厳密に定められています。
外国人が日本で仕事をするには、原則として、その活動内容に見合った就労可能な在留資格を取得していることが必須条件となります。在留カードは、この重要な在留資格を証明する公的な文書なのです。
外国人は在留カードの携帯が必須
在留カードの交付対象となる外国人、すなわち中長期在留者は、日本国内に滞在している間、常に在留カードを携帯することが法律(入管法第23条)によって義務付けられています。
これは、日本に合法的に滞在していることを証明し、必要に応じて入国審査官や警察官などの法執行官から提示を求められた際に、直ちにこれに応じられるようにするためです。
もし、正当な理由なく在留カードの携帯を怠ったり、提示を拒否したりした場合には、法律に基づき20万円以下の罰金が科せられる可能性があります。企業側としても、従業員である外国人材に対し、この携帯義務を周知徹底させることが大切です。
在留カードに記載されている重要な項目
在留カードの表面には、その外国人の基本的な個人情報と在留資格に関する情報が細かく記載されています。これらの情報は、雇用する企業が必ず確認すべき極めて重要な内容を含んでいます。具体的な記載事項としては、氏名、生年月日、国籍・地域、性別、住居地といった基本的な情報に加え、在留資格の種類、在留期間、在留期間の満了日、そして就労制限の有無を示す「就労制限の有無」の欄などが挙げられます。
特に裏面には、住居地の変更や、許可された在留資格の活動内容以外で収入を得る活動を行う際に必要となる「資格外活動許可」の有無や、再入国の有効期限などの情報が記載されており、採用時には裏面までしっかりと確認することが法令遵守の第一歩となります。
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更新などの各種手続きは出入国在留管理庁で行う
在留カードの有効期限が迫った際の在留期間の更新手続きや、在留資格を変更したい場合の変更許可申請など、在留カードに関する一切の手続きは、申請者の住居地を管轄する地方出入国在留管理官署(通称:入管)で行うことと定められています。
有効期限の満了日を過ぎてしまうと、その外国人は不法滞在となり、企業側も意図せず不法就労助長罪に問われるリスクが生じます。そのため、企業は外国人従業員の在留期間満了日を確実に把握し、余裕をもって更新手続きを進めるよう促すなど、在留期間を常に管理することが非常に重要となります。
2. 外国人雇用における在留カードの確認プロセス
外国人材を採用する際、企業は在留カードを提示してもらうだけでなく、そのカードが本物であるか、そしてその在留資格で自社の業務に従事することが許可されているかを、多角的に確認する義務があります。
この確認作業は、企業が不法就労助長罪に問われるリスクを回避するための、最も重要なプロセスの一つです。
偽造カードでないかの確認方法
残念ながら、日本国内では巧妙に作られた偽造在留カードが摘発される事例が増加傾向にあります。
企業は、提示されたカードが偽造品ではないかを慎重にチェックする必要があります。最も簡単かつ確実な方法としては、「在留カード等番号失効情報照会」を利用し、出入国在留管理庁のウェブサイト上でカード番号を入力して、失効していないかを照会することが推奨されます。
また、肉眼での確認ポイントとしては、カードの表面にあるホログラムが光の角度によって色やデザインを変えるか、カードの地模様や文字の精細さ、写真の貼り付け状態、そしてICチップの有無などを細かく確認することが有効です。
本物の在留カードは高度な偽造防止技術が施されており、不自然な点がないかを丁寧に検証することが求められます。

就労制限の有無についての確認方法
外国人材を雇用する上で、最も注意が必要なのが「就労制限の有無」です。
在留カードの表面には「就労制限の有無」という欄があり、ここに記載されている内容によって、その外国人が日本で報酬を得る活動ができるかどうかが決まります。
たとえば、「就労不可」と記載されている在留資格(例:留学、文化活動、短期滞在など)を持つ外国人を雇用することは、原則として不法就労となります。
一方、「在留資格に基づく就労活動のみ可」と記載されている場合は、その資格で許可された業務範囲内でのみ就労が可能です。
また、「就労制限なし」と記載されている場合(例:永住者、日本人の配偶者等、定住者など)は、日本人と同様に基本的にどのような職種でも就労が可能です。
企業は、この欄の記載内容と、従事させる業務内容が適合しているかを厳密に確認しなければなりません。
企業は在留カードの確認を怠ると罪に問われる可能性がある
在留カードの確認を適切に行わず、結果として不法就労者であると知りながら、または確認を怠ったことで知らずに不法就労者を雇用したり、就労をあっせんしたりした企業や個人は、「不法就労助長罪」に問われる可能性があります。この罪は、外国人本人が不法に働いたことに対して問われる罪とは別に、企業側が負う重大な責任であり、3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、またはその両方が科せられる非常に重い罰則が規定されています(入管法第73条の2)。外国人雇用は、企業の社会的責任と法令遵守が強く求められる分野であり、在留カードの確認は単なる手続きではなく、重大なリスク管理の一環であることを認識しておくべきです。
3. 外国人材雇用で企業が行うべき対応策と注意点
在留カードに関するトラブルや、従業員からの相談に適切に対応するためには、企業側もあらかじめ具体的な対応マニュアルを整備しておくことが望ましいです。ここでは、外国人雇用において企業が留意すべき具体的な注意点と、問題発生時の適切な対応について解説します。
偽造カードを発見したり不法就労の斡旋を持ち掛けられたりしたら……
採用選考の過程で提示された在留カードが、明らかに偽造品であると疑われる場合や、外国人材の紹介や斡旋を装って、不法就労を目的とした勧誘や依頼を受けた場合には、絶対にそれに応じることなく、直ちに最寄りの警察署や地方出入国在留管理官署に通報することが企業の義務となります。
違法行為に加担することは、不法就労助長罪に問われるだけでなく、企業の信用を大きく損なうことにつながります。毅然とした態度で違法行為を拒否し、法令遵守を徹底しましょう。また、不法就労に関する相談窓口や情報提供制度も活用し、積極的に行政機関と連携することが重要です。
紛失したことを相談されたら……
外国人従業員から在留カードを紛失した、盗難にあったなどの相談を受けた場合、企業は速やかに再交付の申請を行うよう促す必要があります。紛失・盗難・滅失などの事実を知った日から14日以内に、本人が居住地を管轄する地方出入国在留管理官署に対して、再交付申請を行わなければならないと定められています。
企業は、再交付の手続きに必要な書類や手続きの流れについて情報提供を行うなど、適切なサポートを提供することで、従業員の適法な滞在を支援し、早期に在留カードを再取得できるように協力することが望ましいです。
在留カードの携帯は必ず原本で行う
前述のとおり、中長期在留者は在留カードの携帯義務がありますが、携帯すべきは原本です。
提示を求められた際に、コピーや画像データなどではなく、本物の在留カードを提示できるようにしなければなりません。企業内での教育の際も、この点は明確に従業員に伝える必要があります。
紛失のリスクを懸念してカードのコピーを携帯しているケースも見られますが、法律上の携帯義務を果たすためには、あくまで原本の携帯が必要であることを認識させることが大切です。
採用する場合は在留カードのコピーをとる
外国人材を正式に採用する際、企業は在留カードの原本を確認するだけでなく、その記録として、カードの表裏両面のコピーを必ず取得し、保管しておくことが強く推奨されます。
このコピーは、雇用した時点での在留資格、在留期間、就労制限の有無などを証明する重要な証拠となります。
特に、在留期間が満了した後に、従業員が在留資格の更新手続きを行っているかどうかを確認するためにも、コピーを保管し、管理台帳と照らし合わせることは不可欠です。適切な管理体制を構築することで、法令遵守の証明にもつながります。
在留カードでの再入国は1年以内が原則
中長期在留者が一時的に日本国外へ出国し、再び日本へ戻って活動を継続する場合、原則としてみなし再入国許可制度を利用できます。
この制度を利用する場合、出国時に有効な在留カードを所持し、「みなし再入国許可による出国を希望します」という意思を表明することで、通常は1年以内、あるいは在留期間満了日のいずれか早い日までの再入国許可を個別に受けることなく出国・再入国が可能です。
ただし、「永住者」の在留資格を持つ方は、この期間が5年以内となります。企業は、海外出張や一時帰国などで出国する外国人従業員に対し、この再入国期限を周知し、期限内に日本に戻るように指導・管理することが求められます。期限を過ぎてしまうと、その在留資格を失い、改めてビザを取得しなければならなくなります。
在留カードは、外国人材の日本での活動における「パスポート」とも言える重要な証明書です。
外国人材の雇用は、企業に新たな活力を与える一方で、法令遵守を徹底するための厳格な管理体制も同時に要求されます。本記事で解説した確認方法や注意点を踏まえ、常に最新の情報を確認しながら、適法で安心できる外国人雇用を進めていきましょう。
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