製造業界で深刻化する人手不足に対応するため、特定技能制度では「工業製品製造業」分野が新たに注目されています。
この分野では、2024年に業種拡大が行われ、旧来の「素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業」に加え、プラスチック製品や印刷業、紙器・陶磁器など幅広い製造業種が対象となりました。
本記事では、対象業務や企業側の受け入れ条件、試験制度、採用での注意点など、製造業分野における特定技能制度のポイントを整理・解説します。
1. 工業製品製造業分野(製造業)とは?
工業製品製造業分野は、特定技能制度において製造業分野での外国人労働者を受け入れるための枠組みで、以前の「素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業」を統合・改称したものです。2024年以降、製造業全体を広くカバーする新体制となりました。
製造分野は特定技能外国人労働者は多い
製造分野で働く特定技能外国人は、2024年12月末時点で45,183人にのぼり、特定技能の対象業種の中でも非常に大きな割合を占めています。実際、製造業は特定技能制度における中核的な分野といえるでしょう。
また、出入国在留管理庁が公表している今後5年間の受け入れ見込み数は17万3,300人と、すべての分野の中で最も多くなっています。このことからも、製造分野は今後も外国人労働者の重要な就業先として、さらに注目されていくと考えられます。
2. 製造分野は3つの分野が統合・再編され「工業製品製造業」へ
特定技能の製造分野は、もともと以下の3つの分野に分かれていました。
- 素形材産業分野
- 産業機械製造業分野
- 電気・電子情報関連産業分野
しかし、「産業機械製造業分野」では受け入れ上限人数を超えたことにより、新規入国の受け入れが一時停止となるなど、制度運用上の課題が生じたため、2022年5月に3分野を統合。新たに「素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業」として一本化されました。
その後、さらに名称が変更され、現在は「工業製品製造業」という名称に統一されています。また、統合・再編にあわせて、新たな業種・業務区分も追加され、より柔軟な制度運用が図られています。
※以下では、便宜上「製造業」として表記します。
3. 「製造業」分野で就労、受け入れ可能な業種・作業区分
「工業製品製造業(旧:素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業)」では、分野再編後に対象区分が拡大され、現在は全10区分が特定技能の受け入れ対象となっています。これにより、製造分野における特定技能外国人の活用がさらに広がりました。
受け入れ対象となる10の区分は以下の通りです。
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これらの業務区分は、それぞれ異なる製造工程や技能水準が求められます。
次に、それぞれの業務内容や求められる技能・経験について詳しく見ていきましょう。
▶︎機械金属加工区分
金属やプラスチック素材に熱や圧力を加え、部品や部材を加工・製造する業務を担います。
対象技能
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▶︎電気・電子機器組立て区分
工場や事務所で使用される各種機械の加工や組み立てを行います。建設・農業・工業・木工機械などが対象です。
対象技能
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▶︎金属表面処理区分
金属製品の耐久性や強度を高めるため、表面処理を行う業務です。
対象技能
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▶︎紙器・段ボール箱製造業区分
対象技能
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▶︎コンクリート製品製造業区分
対象技能
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▶︎RPF製造業区分
再生可能固形燃料(RPF)を製造する業務です。
対象技能
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▶︎陶磁器製品製造業区分
対象技能
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▶︎印刷・製本区分
対象技能
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▶︎紡織製品製造区分
衣料やインテリアなどに使われる繊維製品の製造を行います。
対象技能
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▶︎縫製区分
各種衣料品や布製品の縫製を行う業務です。
対象技能
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関連業務は主業務に付随する範囲で従事可能
工業製品製造業においては、主たる業務と密接に関係する作業について、付随的に行うことが認められています。たとえば、原材料や部品の調達・運搬、工程の前後に関わる作業、クレーンやフォークリフトの運転、工場内の清掃や設備の点検・保守などがこれに該当します。
ただし、これらの関連業務のみを専属で担当することはできません。必ず本来の製造業務と併せて行う必要があります。
4. 受け入れ企業の要件
特定技能外国人を雇用する場合、受け入れ企業の産業が以下の日本標準産業分類のいずれかに該当している必要があります。
製造分野で特定技能1号のみを受け入れ可能な事業所の日本標準産業分類(主要分類コード)
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製造分野で特定技能1号・2号のどちらも受け入れが可能な事業所の日本標準産業分類
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上記のいずれかの産業分類に該当しているかどうかは、外国人が実際に働く事業所において、直近1年間で製造品出荷額などの実績があるかどうかで判断されます。
つまり、事業所がその産業に属していても、実際の出荷や製造活動が行われていない場合は、受け入れ要件を満たさない可能性があるという点に注意が必要です。
製造品出荷と認められるための条件
製造分野で特定技能1号の外国人を受け入れるためには、売上につながった製品が「事業所が所有する原材料」によって製造・出荷されていることが必要です。
✅ 製造出荷とみなされるケース
以下のようなケースも、製造品出荷としてカウントされます:
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このように、「自社所有の原材料からの製造であること」および「販売や自家使用などの実績があること」の2点がポイントとなります。必要に応じて、証明資料(納品書、売上台帳など)を準備しておくとよいでしょう。
協議会への加入(在留資格申請前に必要)
製造業で特定技能外国人を受け入れる企業は、在留資格の申請前に、経済産業省が設置する
「製造業特定技能外国人材受入れ協議・連絡会」への加入が義務付けられています。
🔷 加入手続きの方法
手続きは「特定技能外国人材制度(製造3分野)ポータルサイト」内
「製造業特定技能外国人材受入れ協議・連絡会」のページにある
「特定技能外国人を雇用したい企業の方はこちら」から行います。
🔶 注意点
加入完了までには通常2カ月程度かかります。
多くの企業では1~2回の修正対応が求められるため、早めの申請が必要です。
入会完了のタイミングは、構成員名簿に企業名が掲載された時点です。
「紡織製品製造」「縫製」区分の追加要件について
これらの分野では過去に時間外労働に関する賃金不払等の違反が多く見られたため、特定技能外国人の適正な受入れと労働環境の整備を目的に、以下の4つの追加要件が設定されています。
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① 国際的な人権基準に基づいた事業運営
企業は、外部の監査機関からの認証を受けており、その内容が国際的人権基準に準拠していることが求められます。以下の認証制度が対象例です。
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満たすべき条件
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※審査項目は84項目に及び、「強制労働の禁止」「差別・ハラスメントの禁止」「賃金の公正な支払い」などが含まれます。
② 勤怠管理の電子化
「紡織製品製造」「縫製」分野では、勤怠管理の電子化が特定技能外国人の受け入れ要件の一つとされています。
受け入れ事業所では、以下いずれかの勤怠システムを導入し、実際に運用していることが求められます。
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申請時には、以下の資料を提出する必要があります。
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登録システム以外を導入する場合でも、以下の機能を備えていることが必要です。
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勤怠管理のIT化により、以下のような効果が期待されます。
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特に中小企業や小規模事業者においては、電子化を通じて適切な労務管理体制を整えることが、特定技能外国人の安定雇用の基盤となります。
③ 「パートナーシップ構築宣言」の実施
企業は、取引先との共存共栄を目指す取り組みとして、「パートナーシップ構築宣言」を行い、ポータルサイト上で公表する必要があります。
※「パートナーシップ構築宣言」とは、企業が取引先との共存共栄を目指し、代表者の名前で取り組み内容を宣言し、専用のポータルサイト上で公表する制度です。
【主な取り組み内容】
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提出が求められる資料
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※事業所単位ではなく、企業単位での宣言が必要です。
④ 月給制の導入(安定的な給与の確保)
仕事量の変動で外国人労働者の生活が不安定にならないよう、特定技能外国人には月給制の導入が義務付けられています。
月給制の具体的要件
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※審査時には、所定の誓約書を企業代表者名で提出する必要があります。
これらの要件は、労働環境の適正化と国際的な信頼性を確保するために設けられており、特定技能制度の円滑な運用において非常に重要です。特に繊維や縫製分野で外国人材の受入れを検討している事業者は、早めの対応と体制整備が求められます。
5. 製造分野の特定技能1号の取得要件
特定技能1号取得には次の二つの方法があります
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【1】試験に合格するルート
製造分野において特定技能1号を取得するには、次の2つの試験に合格する必要があります。
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※製造分野特定技能1号評価試験は「学科」と「実技」で構成されており、従事したい業務区分の試験を受験します。試験は国内外で実施されています。
【2】技能実習2号(育成就労)からの移行
すでに日本で技能実習2号(現在の名称では「育成就労」)を修了している場合、同一業務区分であれば評価試験・日本語試験を免除されたうえで、特定技能1号へスムーズに移行することが可能です。
特定技能1号は、試験を通じて技能・日本語能力を証明するか、技能実習での実績を評価されて取得する形となります。どちらのルートが適しているかは、本人の状況に応じて判断しましょう。
6. 製造分野の特定技能2号の取得要件
特定技能2号の取得には、以下のいずれかを満たす必要があります:
取得方法①:評価試験パターン
以下すべてを満たすことが必要です。
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取得方法②:技能検定ルート
以下の要件をすべて満たすことが必要です。
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7. 特定技能評価試験概要
外国人が「特定技能」の在留資格を取得するためには、分野ごとに実施される評価試験への合格が必要です。ここでは製造分野を例に、1号・2号それぞれの評価試験の概要を解説します。
■ 特定技能1号評価試験
項目 | 内容 |
試験区分 | 全10区分(従事する業務に応じて受験区分が異なる) |
試験内容 | 学科試験+実技試験(合計80分) |
実施方式 | CBT(コンピューター・ベースド・テスティング)方式 |
言語 | 日本語 |
試験水準 | 技能実習2号修了者向けの「技能検定3級」程度 |
合格基準 | – 学科試験:正答率65%以上 – 実技試験:正答率60%以上 |
試験日程・会場 | ポータルサイトで随時案内あり |
備考 | 初めて特定技能で在留資格を取得する人が対象 |
詳細:
▶ 製造分野特定技能1号評価試験 – 試験案内(外部サイト)
■ 特定技能2号評価試験
項目 | 内容 |
試験区分 | 全3区分(より高度な管理・専門業務) |
試験内容 | 実技試験のみ(80分) |
実施方式 | CBT方式(実作業をイメージした選択形式) |
言語 | 日本語 |
試験水準 | 技能検定1級程度(1号より高度な専門性) |
合格基準 | 正答率65%以上 |
試験日程・会場 | ポータルサイトで随時案内あり |
備考 | 特定技能1号経験者・実務経験者が対象。より高度な技術が必要。 |
📎 詳細:
▶ 製造分野特定技能2号評価試験 – 試験概要(外部サイト)
特定技能2号評価試験申込方法の注意点
2024年度から、特定技能2号評価試験の申込みには事前の「実務経験証明書」の提出と、受験資格確認番号の取得が必須となりました。以下のステップを正しく踏まないと、試験予約ができませんので注意が必要です。
申し込みの流れ【5ステップ】
① 実務経験証明書を作成する 特定技能2号試験の受験には、3年以上の実務経験を証明する書類が必要です。雇用している外国人から依頼があった場合は、企業側が協力して記入・発行します。📎 提出フォーマットや記載例は下記から確認できます: ▶ 実務経験証明書について|工業製品製造業分野 ポータルサイト② 専用フォームから申請(受験資格確認番号の取得) 受験者本人が、経済産業省のポータルサイトにある専用フォームから、受験資格確認番号の取得申請を行います。🔗 専用フォーム:https://cbt.sswm.go.jp/mail ③ 書類の確認(事務局による審査) ④ 「受験資格確認番号」を受信 ⑤ 試験予約時に「受験資格確認番号」を入力 |
注意ポイント
チェック項目 | 内容 |
実務経験証明書 | 企業が協力して正確に記載すること |
申請時期 | 番号取得に時間がかかるため早めに手続きすること |
不備対応 | 不備があればすぐに再申請できるよう準備すること |
番号入力 | 試験予約時に番号を正確に入力すること |
申請や記入に不安がある場合は、行政書士や専門機関への相談も検討すると安心です。必要であれば、実務経験証明書の記載サンプルなどもご提供できますので、お申し付けください。
8. 採用で注意すべきこと
企業が特定技能工業製品製造業分野で採用を行う際の主なポイントは以下となります。
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9. まとめ
「工業製品製造業分野」は、従来の製造分野を再編し、対象業種を拡大した制度枠です。
対象業務には、機械加工・電子組立て・表面処理のほか、印刷、繊維、RPF製造など多岐にわたります。
企業側には、事業内容の該当、協議会加入、適切な雇用形態の確保など多くの要件が課されています。
特定技能1号・2号それぞれに評価試験や技能検定、日本語試験、実務経験などの取得ルートがあり、2号では更に高度な技能と経験が求められます。
制度の活用には、業務分類や要件を正確に把握し、行政機関や協議会と連携して進める準備が重要です。
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