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育成就労制度と技能実習制度の違いとは?目的・施行日・企業対応を徹底解説

技能実習制度の問題点は長年指摘され、労働環境の不備や人権課題が社会問題として大きく取り上げられるようになりました。
また、海外からも批判が相次ぎ、制度見直しの必要性が高まっています。こうした背景から、技能実習制度は廃止され、新たに「育成就労制度」に移行されることが決定しました。
技能実習制度を完全に廃止するわけではありませんが、制度内容の大幅な変更として理解して差し支えありません。

育成就労制度は、日本国内の人手不足を補いながら、外国人材を労働力として育成・確保することを目的としています。従来技能実習生を受け入れてきた企業にとっては、今後の対応や準備が重要な課題となるでしょう。
現在も議論中の制度ですが、施行予定日や制度内容、企業が行うべき準備など、現時点で分かっている情報を整理しました。
本記事では、技能実習制度との違いや企業対応を中心に、育成就労制度の全体像をわかりやすく解説します。

1. 育成就労制度とは?

―外国人材の育成と日本企業の人手不足解消を目指す新制度―

育成就労制度は、今までの技能実習制度に変わる新しい制度です。目的は、外国人材を育成しつつ、日本企業の人手不足を補うことにあります。技能実習制度は国際貢献の名目がありましたが、実際には企業の労働力確保のために使われることが多く、そこにギャップがあると指摘されていました

育成就労制度では、外国人材が日本で働きながら技能や知識を段階的に身につけられるよう設計されています。
さらに、3年間の育成期間を経て、特定技能制度へのキャリアパスも用意されているため、将来的に長期的に働ける環境が整う予定です。また、条件付きで転籍も可能になるので、「ここで長く働きたい」と考える人にとっても安心です。


2. 技能実習制度廃止の背景と課題

―社会問題化した技能実習制度の課題と育成就労制度への移行理由―

技能実習制度の問題点

技能実習制度では、外国人材の労働環境や権利保護に多くの課題がありました
低賃金、長時間労働、労働条件の不透明さ、相談窓口不足など、働く側にとって負担の大きい問題が指摘され続けました。さらに、技能実習生の権利が十分に守られていないケースもあり、国内外から制度改善を求める声が高まったのです。特に国際的には、「外国人労働者の権利侵害」として批判されることもあり、日本の制度改革の必要性が明確になりました。

※主な問題点

1. 制度の目的と現場の実態のギャップ

本来、技能実習制度は「発展途上国への技能移転を通じた国際貢献」を目的として始まりました。
しかし実際には、日本国内の人手不足を補う労働力として活用されるケースが多く、制度の理想と現場の実情に大きなズレが生じていることが問題視されています。

2. 実習生の立場が弱くなりやすい構造

技能実習生は受け入れ企業や監理団体との関係の中で、立場が弱くなりやすい状況にあります。
労働環境の不備や人権侵害といった問題が報道されることもあり、実習生が声を上げづらい構造が課題とされています。
中には、厳しい環境や待遇を理由に実習先を離れる(いわゆる“失踪”する)ケースも見られ、制度全体の見直しを求める声が高まっています。

育成就労制度の設計方針と4つの方向性

上記のような問題点があったため、育成就労制度は技能実習制度の課題を解消するために以下の4つの方向性で設計されています。

  1. 実態に即した見直し:労働環境や人権保護を考慮した運用に変更。

  2. キャリアパスの明確化:技能向上の成果が確認できる仕組みを設置し、特定技能制度へ円滑移行。

  3. 人権保護の強化:本人の意向による転籍や支援機関の役割明確化で権利保護。

  4. 受入れ環境の整備:日本語能力向上や相談窓口設置で、外国人材の働きやすい環境を促進。


3. 育成就労制度の詳細

―施行時期、対象分野、転籍・日本語要件など企業が知るべきポイント―

施行予定時期と準備

育成就労制度は2027年4月施行予定です。現在技能実習を行っている外国人材は、施行後も継続して実習が可能。
また、技能実習計画が認定済みであれば、施行後に入国も認められる予定です。

企業は施行前から以下の準備を進めておくと安心です。

・日本語学習やキャリア教育の環境整備

・相談窓口や社内体制の整備

・労働条件・給与体系の見直し

受入れ対象分野と職種

育成就労制度の対象は、特定技能制度と同様の分野に限定されます。
技能実習制度で認められていた90職種(165作業)のうち、一部は新制度で対象外になる可能性があります。今後、鉄道、林業、木材産業、自動車運送業などが追加される予定です。

技能実習制度 育成就労制度
対象分野 90職種(165作業) 特定産業分野に限定(予定)
可能な作業 細かく限定的 特定技能と同じで、幅広い

転籍は条件付きで可能に

これまでの技能実習制度では原則として認められていなかった「転籍(職場の変更)」が、新たに導入される育成就労制度では一定の条件を満たすことで可能になる予定です。
これは、実習生が不当な扱いを受けた場合や、より良い環境を求める場合に選択肢を持てるようにするための大きな改善点といえます。

育成就労制度における転籍の主な特徴

育成就労制度の転籍制度では、以下の2つのパターンが明確に定められる予定です。

①やむを得ない事情による転籍
 従来も一部認められていましたが、範囲があいまいでした。
 育成就労制度では「企業の倒産」や「安全衛生上の問題」など、
 具体的なケースを明確化したうえで、手続きもよりスムーズに行えるよう改善される見込みです。

②本人の希望による転籍
 これまでは認められていませんでしたが、育成就労制度では一定の条件を満たせば本人の意思で職場を変えることが可能になります。
 キャリアアップや環境改善を目指す外国人材にとって、重要な選択肢となるでしょう。

本人の希望で転籍を行う場合の主な条件

本人の意思で転籍を希望する場合には、次のような条件が設定される予定です。

・同一の受入れ機関で1~2年以上勤務していること(分野により期間が異なる)

・技能検定試験(基礎級など)に合格していること

・日本語能力試験A1~A2相当レベルの語学力を有していること

・転籍先の受入れ体制が適正であること

・同一業務区分内での転籍であること

これらの要件を満たすことで、技能向上とともにより良い環境で働けるチャンスが広がります。

転籍が認められることで、実習生(=育成就労者)の人権保護が進む一方、企業側にとっては「優秀な人材を定着させるための努力」がより求められるようになります。

つまり、育成就労制度では単に「働いてもらう」関係ではなく、外国人材が安心して長く働ける職場づくりが重要になるということです
転籍が可能になることで人材流動性は上がりますが、そのぶん企業は「選ばれる職場」としての魅力を磨く必要があるでしょう。

日本語能力の要件

育成就労制度の在留資格を得るためには、以下のいずれかの条件を満たす必要があります。

・日本語能力A1相当(日本語能力試験N5レベル)以上に合格していること

・または、相当する日本語学習を修了していること

つまり、日本語でのあいさつや基本的な会話、簡単な指示を理解できる程度のレベルが求められます。
これは、日常会話だけでなく、職場での安全指示や報告・連絡・相談を行うために必要な最低限の語学力といえるでしょう。
これは、現場での安全確保や円滑なコミュニケーションを目的としたもので、技能実習制度よりも「言葉の理解力」を重視する方向で見直されています。

※日本語レベルは分野ごとに異なる可能性も

必要とされる日本語能力のレベルは、業種や職種によって異なる可能性があります。
たとえば、介護分野では利用者とのコミュニケーションが欠かせないため、現行の技能実習制度と同様にJLPT N4レベル(A2相当)以上が求められる方向で検討されています。

一方で、製造業や農業などでは、業務内容によってはN5レベルでも十分とされるケースもあります。
このように、育成就労分野ごとに柔軟に日本語要件が設定されるのが新制度の特徴です。

企業が育成就労の外国人を受け入れるための要件

育成就労制度のもとで外国人を雇用するためには、受け入れ企業にも一定の要件が設けられます。
これまでの技能実習制度とは異なり、「国際貢献」を目的とする形式的な条件ではなく、労働環境や人材育成の体制づくりに重点が置かれるのが特徴です。

まず、企業が育成就労者を採用できるのは、国が指定する「特定産業分野」に該当する業種・職種のみとなります。
現時点では、介護・農業・建設・製造など、既存の技能実習制度でも多くの外国人材が活躍している分野が中心になる見込みです。

そのほかの分野については、今後の制度設計の中で順次検討される予定であり、産業界の人手不足の状況や実務内容に応じて拡大される可能性もあります。

監理団体は「監理支援機関」へ名称変更、体制をより厳格に

これまで技能実習制度のもとで、技能実習生や受け入れ企業をサポートしてきた監理団体は、新制度では「監理支援機関」へと名称が変わり、より独立性と透明性の高い組織体制を目指す方針です。

過去には一部の監理団体による不正行為や不適切な運営が社会問題となったことを受け、国は育成就労制度における監理支援機関の許可要件を厳格化。さらに、外部監査人の設置を義務付けるなど、チェック体制を強化する予定です。
これにより、不法就労や人権侵害などのトラブル発生時にも、より迅速で公平な対応が期待できるでしょう。

なお、現在活動している監理団体は、今後「監理支援機関」として継続するために新たに申請・審査を受ける必要があります。審査内容や手続きの詳細については、今後公表される予定のため、最新情報を随時確認しておくことが重要です。

悪質ブローカー対策として「不法就労助長罪」を厳罰化

育成就労制度の導入にあわせて、外国人労働者を不法に就労させた際に適用される「不法就労助長罪」も改正される予定です。

これまで以上に処罰が厳しくなり、「5年以下の懲役または500万円以下の罰金」が科される見込みです。
この背景には、転籍制度の導入により外国人労働者の移動が増え、それに乗じて悪質なブローカー(仲介業者)が介入するリスクが高まると懸念されていることがあります。政府はこうした違法な斡旋行為を未然に防ぐ狙いで、法改正を進めています。

さらに、改正の重要なポイントとして、外国人本人が来日前に現地送り出し機関へ支払っていた手数料などの一部を、受け入れ企業が負担できる仕組みを導入する方針も示されています。
これにより、外国人労働者の過剰な経済的負担を軽減しつつ、企業側にも適正な受け入れ責任を促す形となります。
結果として、より健全で透明性の高い外国人雇用環境の整備が期待されています。


4. 育成就労制度と技能実習制度の違い

―企業・外国人材が知っておくべき主要な違い―

育成就労制度と技能実習制度には、どのような違いがあるのでしょうか。まずは、技能実習制度の基本的な仕組みを振り返ってみましょう。

技能実習制度のポイント

・目的は「途上国への技術移転」であり、国内の労働力確保が主目的ではない
・実習生の保護を確保するため、受け入れ企業は適切な体制のもとで実習を実施する必要がある

これらの特徴を踏まえたうえで、次に新しく創設された育成就労制度と技能実習制度の違いについて比較してみましょう。

育成就労制度 技能実習制度
目的 人材確保、人材育成 国際貢献、途上国への技術継承
受け入れ可能な職種 特定技能と同じ(16分野) 90職種(165作業)
在留期間 3年 1号が1年、2号が2年、3号が2年(通算5年間)
転籍 同一企業で1年以上働いたのち、可能 原則不可
保護、支援 外国人技能実習機構を改編、 外部監査人が入る監理支援機関など 外国人技能実習機構、国際人材協力機構、監理団体との連携
在留資格 育成就労 技能実習
特定技能への移行 移行分野・職種が一致し、試験に合格すれば可能 移行分野・職種が一致していない場合は不可
民間の職業紹介業者の介入 不可 可能

これまでの技能実習制度では、「国際貢献」を目的としながらも、実際には労働力として技能実習生を受け入れていたという側面がありました
しかし、その運用において人権侵害や不適切な労働環境などの問題が多く指摘されてきたことから、政府は新たに「育成就労制度」を創設しました。

育成就労制度では、「働きながら技能を学び、将来的に安定した就労につなげる」という方向に大きく転換されています。つまり、単なる「実習」ではなく、労働者としての成長を前提とした制度になっている点が、最大の違いです。

さらに、新制度では以下のような改善が図られています。

・特定技能への移行がスムーズに
 育成就労から特定技能への在留資格変更が容易になるよう、職種や業務内容が整理されています。

・転籍(職場変更)が可能に
 従来はほぼ不可能だった転籍が、一定の条件のもとで認められるようになりました。
 これにより、労働者の権利が保護されやすくなり、企業にとっても適正な人材確保が可能になります。

また、制度移行によって変わる可能性のある分野や、企業側から見たメリット・デメリット、さらには民間の職業紹介事業者が関与できない点など、実務的なポイントを3つに分けて詳しく解説します。

5. 育成就労制度における3つの重要ポイント

育成就労制度の導入は、単なる制度名称の変更ではありません。
これまでの技能実習制度で指摘されてきた課題を見直し、外国人本人のキャリア形成を重視しながら、日本企業にとっても安定的に人材を確保できる仕組みへと進化しています。

ここでは、特に押さえておきたい3つの重要なポイントを解説します。


① 育成就労制度への移行でなくなる可能性のある分野

現在の技能実習制度は、90を超える職種・作業で構成されています。
しかし、育成就労制度では、そのすべてが継続されるわけではありません。

政府は制度移行にあたり、

・実習内容が本来の「技能の修得」という目的から離れているもの
・実際には単純労働として運用されているもの
を中心に、対象職種を絞り込む方針を示しています

たとえば、これまで実習職種として認められていた中には、実質的に単純作業とみなされる業務も含まれており、これらは育成就労制度に移行しない可能性が高いとされています。

一方で、将来的に「特定技能」へと在留資格を移行できるよう、特定技能1号・2号との接続性がある分野が優先的に残される見通しです。

つまり、農業・介護・建設・製造などの労働力不足が深刻な業種は、引き続き制度の中心的な役割を担うことになります。

現状ではどの分野が対象外になるのかを明言することはできません。まだ変更になる可能性もあるので、続報に注目しましょう。


② 企業目線でのメリット・デメリット

育成就労制度は、受け入れる企業側にとっても大きな影響を与えます。
以下では、企業目線でのメリットとデメリットを整理します。

■ メリット:人材育成と安定雇用の実現

まず大きな利点は、育成型の人材確保が可能になることです。
従来の技能実習では「最長5年」で帰国しなければならず、せっかく育った人材が離職してしまうという課題がありました。
しかし、育成就労では特定技能へのスムーズな移行が可能なため、企業は長期的な人材育成・戦力化を前提にした受け入れができるようになります。

また、転籍制度の導入により、労働環境の改善インセンティブが生まれる点も注目です。
企業が労働条件を整え、働きやすい職場を提供すれば、優秀な外国人材を定着させやすくなります。

■ デメリット:受け入れ要件の厳格化とコスト負担、転籍リスク

一方で、制度の厳格化により企業側の負担が増える可能性もあります。

たとえば、下記の点が想定されています。

・受け入れ企業の適正性審査がより厳しくなる

・外国人の職業能力評価やキャリア支援が求められる

・監理団体の役割が縮小し、企業自身の責任が増す

・1年で転籍する可能性がある

これまでのように「監理団体任せ」で受け入れることは難しくなり、より自社主導の人材育成体制を整える必要があります。

また、育成就労生が特定技能へ移行する場合、在留資格変更や試験の手続きに関するサポートも求められるため、人事担当者の業務負担が一時的に増加することも予想されます。

そして企業側にとっての何よりのデメリットは、1年で転籍が可能になると言う事でしょう。
転籍制度はメリットになるとお伝えしましたが、デメリットにもなり得ます。企業側からすると、時間とお金を費やして日本に呼んで仕事にも慣れたのに、1年で転籍されたらたまったものではないでしょう
なので、企業側は転籍されないように魅力のある企業である必要があります。


③ 民間職業紹介事業者の関与が制限される点

3つ目のポイントとして、当分の間は民間の職業紹介事業者が関与できない点が挙げられます。

育成就労制度では、一定の条件を満たす場合に限り、転籍が可能となります。
この制度では、悪質なブローカーによる不正な転籍あっせんを防ぐため、監理支援機関・外国人育成就労機構・ハローワークが連携して、安全な転籍支援を行う体制が整備されました。
その結果、違法な仲介業者や職業紹介事業者が転籍を斡旋することは、ほぼ不可能になると考えられます。

これまでの技能実習制度では、監理団体や海外送出機関の間で紹介・仲介が行われるケースが多く、そこに不透明な費用構造や不正斡旋が生じることが問題視されていました。

育成就労制度では、そうしたトラブルを防ぐため、当面の間は「監理団体」や「登録支援機関」に限定した運用が行われる見込みです。

これは制度の健全化という観点では前進ですが、一方で、民間紹介業者がもつ幅広い人材ネットワークを活用できないという課題もあります。

ただし、将来的には制度の安定運用が確認された段階で、民間事業者の関与が段階的に認められる方向性も検討されています。そのため、現時点では慎重な制度移行が進められている状況といえるでしょう。


6. 育成就労制度と特定技能制度の関係

育成就労制度は、外国人が特定技能へスムーズに移行できることを前提に設計された制度です。そのため、両者の関係は非常に密接です。

育成就労制度の目的は、外国人を日本の労働力として育成することにあります。従来の技能実習制度では、職種や作業が細かく分かれているため、技能実習で経験を積んでも、特定技能への移行ができない場合がありました。

これに対して、育成就労制度では、特定技能への移行を前提に職種や作業を調整しているため、制度上のギャップを解消できます。結果として、外国人がより長期的かつ安定して日本で働く環境が整備されたといえるでしょう。


7. 育成就労制度はまだ施行前

2027年4月施行予定で、詳細運用は今後決定。企業は施行前から情報収集・社内準備を進め、外国人材受入れを円滑にする体制を整える必要があります。

この制度は、特定技能への移行を円滑にすることを目的としており、技能実習制度の仕組みを改めたものといえます。
対象となる職種・分野は特定技能と同じ範囲で整備されるため、現在および将来の労働力確保に役立つ制度です。在留資格は「育成就労」となり、最長で3年間の在留が認められる見込みです。

ただし、制度はまだ施行前であり、主務省令も作成途中の段階です。そのため、細かい運用ルールなどは今後変更される可能性があります。新しい情報が判明次第、随時更新していきます。

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