現在、日本で技能実習を行っている外国人が、特定技能への在留資格変更を希望するケースが増えています。しかし、単純な資格変更ではなく、一定の条件を満たす必要があります。本記事では、技能実習から特定技能への移行に必要な条件や手続きの流れ、メリット・デメリット、注意点まで、わかりやすく解説します。企業や本人がスムーズに移行できるよう、ポイントを押さえた内容となっています。
1.技能実習と特定技能について
在留資格「技能実習」
技能実習制度は、外国人が日本でしか得られない技術や知識を学び、母国に持ち帰って活かすことで、 人材育成と国際協力を目的とした在留資格です。教育や研修が中心で、経験を積むことが主目的となります。しかし、企業の人手不足を補う役割もあるため、制度の実態と目的の乖離が問題視されることもあります。
在留資格「特定技能」
特定技能は、日本の人手不足分野で即戦力として働くことを目的とした在留資格です。技能実習とは異なり、直接的な労働が目的であり、長期間の就労が可能です。
技能実習と特定技能の違い
技能実習は教育・研修が中心であるのに対し、特定技能は人手不足が深刻な14の産業分野で、一定の専門的な知識や技能を持ち、日本で即戦力として働ける外国人を受け入れるための在留資格です。
賃金や在留期間、転籍の自由度なども異なります。移行手続きを進める際は、これらの違いを正しく理解することが重要です。
2. 技能実習から特定技能への移行は可能か
技能実習から特定技能への在留資格変更は可能です。
特定技能の在留資格を取得するためには、移行の場合に限らず、技能試験と日本語試験の両方に合格することが基本要件です。
ただし、「技能実習」から「特定技能」へ移行する場合には、一定の条件を満たせば試験を免除されるケースもあります(詳しくは後述します)。
また、技能実習では原則として転籍・転職が認められていませんが、特定技能では転職や受入れ企業の変更が可能です。そのため、技能実習時とは別の企業で働くこともできます。
3. 技能実習から特定技能へ変更するための条件
「技能実習」から「特定技能」へ移行するための条件は、主に次の2点です。
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技能実習を良好に3年間修了(2号まで)し、かつその職種・作業内容が移行先の特定技能1号の業務と関連している場合、技能試験および日本語試験の両方が免除されます。
一方で、技能実習時とは異なる業務に移行する場合でも、技能実習2号を良好に修了していれば日本語試験は免除されます。
移行対象分野
特定技能の受入れ対象分野に限り、技能実習から移行可能です。介護、建設、製造業などの分野が対象となります。対象外の分野では移行は認められません。また、技能評価試験や日本語能力試験への合格が必要です。
技能実習2号から特定技能へ移行できる職種と分野の関係については、出入国在留管理庁の資料 「新たな外国人材の受入れ及び共生社会実現に向けた取組」(P38-41)が参考になります。
ここでは、職種名・作業名が技能実習の職種、分野が特定技能の分野を指しています。
▶参考:出入国在留管理庁|新たな外国人材の受入れ及び共生社会実現に向けた取組
移行可能な特定技能分野(12分野)
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※注意点:
技能実習2号の全職種が特定技能に移行できるわけではありません。
例えば、建設関係の「タイル貼り」は技能実習には存在しますが、特定技能には対象がありません。移行対象かどうかは、必ず分野ごとに確認する必要があります。
4. 特定技能への移行のメリット
技能実習生を特定技能に移行させることには、主に以下の2つのメリットがあります。
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引き続き日本で働いてもらえる
「技能実習で3年、あるいは5年働いてもらったが、慣れた頃に帰国する」といった声は、技能実習を受け入れた企業からよく聞かれます。しかし、人材不足が深刻な14の産業分野では、同じ企業で3年、5年働くことは日本人でも難しい場合があります。
特定技能に移行すれば、技能実習生として培った経験や会社への適応力を活かしたまま、さらに最長5年間働いてもらうことが可能です。 -
人数制限がなくなる(介護・建設を除く)
特定技能では、一部の分野を除き、受け入れ人数に制限がありません。優秀な人材を継続して確保できるため、企業にとって大きなメリットとなります。
5. 特定技能の賃金・届出・転職・家族面のポイント
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賃金は技能実習より高め
特定技能は、同じ業務に従事する日本人労働者と同等以上の報酬が必要です。さらに、技能実習の一段階上の在留資格(3年〜5年程度の経験者として扱う)であるため、必然的に技能実習より賃金は高く設定されます。 - 入管庁への届出義務
特定技能では、随時届出と定期届出が必要です。
- 随時届出:雇用契約の変更や終了時に提出
- 定期届出:年4回、外国人材の活動状況を報告
届出を怠ったり虚偽の届出を行った場合は、受入れ機関・登録支援機関ともに罰則の対象となるため注意が必要です。
▶参考:出入国在留管理庁「受入れ機関・登録支援機関が必要な届け出について」
転籍・転職が可能
技能実習と異なり、特定技能は転籍や転職が可能です。そのため、外国人材に「この企業で働き続けたい」と思ってもらえる環境づくりが重要です。
家族面のフォローも重要
特定技能に移行したくない技能実習生は、家族に会えないことを理由に挙げることが多いです。技能実習から計算すると、特定技能に変更した場合は最長で8〜10年家族と会えなくなる場合があります。こうした事情に配慮し、フォローすることも受入れ企業としての強みとなります。
6. 技能実習から特定技能への具体的な変更手続き
技能実習2号から特定技能への移行手続き(企業側の例)
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上乗せ要件がなければ、申請から結果が出るまで 約2〜3か月 が目安です。
【移行方法に関する注意点】分野ごと・国ごとの要件に注意
技能実習2号から特定技能へ移行する際は、分野ごと・国ごとの要件を事前に確認しておくことが重要です。
1. 分野ごとの上乗せ基準の例
建設業では、特定技能外国人を受け入れる際に以下が必要です:
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新規申請・受入報告・変更申請はオンラインで行う必要があり、出入国在留管理庁と国交省への二重申請の形になることもあります。
手続きは煩雑で費用もかかるため、十分な準備が必要です。
2. 国ごとの要件の例
- 特定技能は現在 15か国 と二国間協力覚書を締結していますが、本国での許可や手続きが必要な場合があります。
- 例えば、ベトナムでは日本のベトナム大使館で推薦者表を取得する必要があり、事前申請が必要です。
- 国によって手続き内容や期間が異なるため、必ず確認してください。
▶参考:出入国在留管理庁|二国間協定での本国において必要な手続
ポイント
技能実習終了後、すぐに特定技能として働いてもらうには、分野ごと・国ごとの要件の有無、手続き期間、在留資格申請期間を逆算して、余裕を持った準備をすることが不可欠です。
7. 在留期限切れ前の特例措置について
「特定活動(4か月)」による特例措置
特定技能1号への在留資格変更を予定している場合でも、在留期間の満了日までに必要書類を揃えられないことがあります。
そのような場合、受入れ機関で就労しながら特定技能への移行準備を行うことができる「特定活動(4か月)」への在留資格変更が可能です。
特例措置の適用要件
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8. まとめ
技能実習から特定技能への在留資格変更は可能ですが、条件や手続きの理解が不可欠です。資格取得に必要な試験や書類準備、分野別の要件を確認したうえで進めることで、スムーズに移行できます。企業・本人双方にメリットがありますが、注意点も押さえて進めることが重要です。
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