海外文化

フィリピン人労働者のリアル 解体新書 2025年

フィリピンでは今も日本への親近感が強く、「いつか日本で働きたい」という声は珍しくありません。しかし実際の就労先の選択では、愛着だけで職場は決まりません。本稿では、フィリピン人がなぜ日本を選ぶのか、そして実際に働く際に重視するポイントについて詳しく解説します。

1. 出稼ぎ大国フィリピン、日本で働く約24万人のリアル

フィリピンは長年にわたって海外就労が身近な選択肢となってきました。2024年10月末時点で、日本に住む外国人労働者は約2,302,600人に達し、過去最高を記録しています。その国籍別では、フィリピン人は約245,565人で、日本で働く外国人のうち約10.7%を占める第3位です。

この数字により、フィリピン人労働者の増加傾向と、日本市場での存在感が改めて裏付けられたと言えるでしょう。

中東がフィリピン人の出稼ぎ先No.1

とはいえ、フィリピン人労働者の多くは、日本ではなく中東諸国を第一の出稼ぎ先として選んでいます。その背景にはいくつかの理由があります。

まず、中東諸国では就労ビザの取得が日本に比べて圧倒的に容易であることが大きな要因です。加えて、家事労働者(メイド)や建設作業員といったブルーカラー分野での受け入れが積極的に行われているため、幅広い職種で就労の機会が提供されています。

一方、日本では2019年の改正入管法によって「特定技能」が創設されるまで、外国人がブルーカラー分野で働くことは非常に難しい状況にありました。特定技能の登場により、ようやく日本でもブルーカラー分野での就労が可能になったものの、資格取得には日本語能力が求められるため、誰もが簡単に働けるわけではありません。

これに対して中東諸国では、英語ができれば就労が可能というケースが多く、英語を公用語とするフィリピン人にとって働きやすい環境が整っています。さらに、給与面でも日本は中東と比較すると低い水準にあることが多く、結果として「日本よりも中東の方が稼げる」と考えるフィリピン人が多いのです。

こうした理由から、フィリピン人労働者にとっての主要な出稼ぎ先は、依然として日本よりも中東諸国に集中しているのが現状です。

2. フィリピン人が日本を就労先として選ぶ理由とは?

中東諸国に比べてフィリピン人労働者の数はまだ多くはありませんが、それでも日本で働きたいと考えるフィリピン人は大勢います。その背景には、次のような理由があります。

1. 日本文化への強い憧れ

フィリピンでは日本の文化が身近に浸透しており、アニメや日本食に親しんで育った若者が多くいます。清潔な街並みや、日本食(寿司・豚骨ラーメン・焼き肉・お好み焼きなど)の本場での味わいに強い憧れを抱く人も少なくありません。フィリピン国内で日本食を食べると高額になるため、「日本に住めば気軽に楽しめる」という点も大きな魅力となっています。

2. 日本人への好印象

実際に日本で働いた経験を持つフィリピン人からは「日本人は親切で礼儀正しい」という声がよく聞かれます。ビザの関係で一度帰国しても、「また日本で働きたい」と希望する人が多いのは、日本人の思いやりや誠実さがフィリピン人にとって心地よいからでしょう。口コミのようにその評判が広まり、日本への就労意欲につながっています。

3. 安全で安心できる治安

中東諸国では人種差別や劣悪な労働環境が社会問題となっています。過酷な扱いや虐待、さらには事件に巻き込まれるリスクも報告されており、賃金が高いとしても「安心して働ける環境」を優先して日本を選ぶ人が少なくありません。家族にとっても、日本で働く方が安心できるという理由が大きく影響しています。

4. フィリピン国内と比べた賃金の高さ

フィリピンの大卒ホワイトカラー職種の初任給は2〜3万円程度と非常に低水準です。対して、日本で就労ビザを取得すれば日本人新卒と同等の給与が得られ、技能実習生であってもフィリピン国内で働くより数倍から10倍近い賃金を得られます。単純に「稼げる」という点も、日本就労の大きな魅力です。

5. 地理的な近さと家族への思い

フィリピン人は家族をとても大切にします。そのため、中東のように渡航に片道10時間以上かかる地域では、簡単に帰国することができません。日本であれば飛行機で片道4時間ほど、時差もわずか1時間です。距離的にも心理的にもフィリピンと近いため、家族とのつながりを保ちながら働けることが、日本を選ぶ大きな理由となっています。

3. 「好き」だけでは決められない!フィリピン人が仕事選びで重視する条件

フィリピン人は親日家が多く、日本に対して好意的な印象を持っています。しかし、「日本が好きだから働きに行く」という単純な理由だけで職場を選ぶ時代は過ぎ去りました。
彼らにとって海外就労は家族の生活を支えるための大きな決断であり、冷静かつ現実的な判断基準を持っています。

さらに世界的に人材獲得競争は激化しており、中東・韓国・ドイツなどの国々は、外国人労働者から「選ばれる国」となるために積極的な施策を進めています。日本も「働いてもらう」立場ではなく、「選んでもらう」立場であることを意識する必要があるでしょう。

ここからは、フィリピン人が海外で働く際に特に重視するポイントを解説します。

給与や福利厚生

フィリピン人にとって最も重要なのは収入です。
日本で働く以上、母国に仕送りをするケースが多く、「1円でも高い給与」「フィリピンにいる時より可処分所得が多いか」という点をシビアに見ています。

また、フィリピンは転職文化が浸透しているため、より良い条件があれば迷わず転職する傾向があります。したがって企業側は給与だけでなく、長く働きたいと思えるような環境を整えることも重要です。

住居の提供は必須ではありませんが、日本の生活に不慣れな外国人にとって大きな安心材料となります。特に来日直後は生活サポートや住宅支援があることで企業へのロイヤリティが高まりやすいでしょう。

一人の社員としての尊重

外国人労働者に長く定着してもらうためには、必ずしも給料や待遇の改善だけが答えではありません。もちろん給与水準は重要ですが、それには限界があります。それ以上に大切なのは「一人の社員として尊重されているか」という点です。

特にフィリピンからの労働者は、多くの場合「出稼ぎ」を目的として来日しており、職種や勤務地に強いこだわりを持たない傾向があります。そのため、条件の良い職場が見つかれば比較的容易に転職してしまいます。これはフィリピンに限らず、日本国内でも近年見られる傾向であり、昔ながらの「石の上にも三年」といった考え方はあまり重視されません。

しかし、国や文化が違っても「人間として尊重されたい」という気持ちは同じです。雇用主が理解を示し、育てようとする姿勢を持ち続ければ、彼らの会社に対するロイヤリティは確実に高まります。給与や待遇以外の側面で、外国人を会社に惹きつける最も強い要素は、この「尊重の姿勢」といえるでしょう。

家族を大切にできる働き方

もう一つ、フィリピン人にとって非常に大きな価値観は「家族を大事にできるかどうか」です。家族を第一に考える文化が根付いているため、職場が従業員の家族に配慮できるかどうかが、定着やロイヤリティを左右します。

例えば、子どもが急に熱を出した時や、家族に何かあった時にすぐ休める環境があるかどうかは重要な判断材料です。家族を理由に休暇を取れる柔軟な職場環境は、フィリピン人にとって大きな魅力となり、そのような環境が整っている会社は「選ばれる職場」となります。

まとめ

かつては「日本で働きたい」と自然に思ってもらえる時代がありましたが、今はもうそうではありません。これからは、日本人である私たち自身が「働く国として日本を選んでもらうための努力と理解」を示していく必要があります

実際、給与や制度の面では欧米や中東に後れをとっているのが現状です。それでも多くのフィリピン人が日本に来てくれるのは、「日本が好きだから」「日本で学びたいから」という強い動機を持っているからにほかなりません。

だからこそ、彼らの思いに応えるために、私たちも給与や制度の改善だけでなく、「一人の社員として尊重する姿勢」「家族を大切にする価値観への理解」といったソフト面での努力を続けていくことが求められます。

この小さな積み重ねこそが、日本の職場を選び続けてもらう最大の理由となり、ひいては日本の雇用を守ることにつながるのです。

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