フィリピン人を採用する際には、MWO(旧POLO)およびDMW(旧POEA)と呼ばれる機関の制度に基づいた手続きが不可欠です。これらの機関は、正式な「Job Order」確認から雇用契約の検証、OEC(海外就労証明書)の発行までを統括し、安全かつ合法な雇用を確保します。本記事では、MWOとDMWの役割や具体的な採用手続きの流れ、雇用主の義務や注意点など、最新の法令と制度に基づき整理・解説します。
1. MWO(旧POLO)申請に関わる主要な行政機関とその役割
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フィリピンでは国民のおよそ10%が海外で就労していると言われており、労働者保護の観点から独自の海外就労制度と厳格な管理体制が整備されています。そのため、フィリピン人材を採用する際は、いくつかの行政機関による審査や手続きを経る必要があります。
ここでは、MWO(旧POLO)申請に関連する3つの主要行政機関とそれぞれの役割について解説します。
DOLE(フィリピン労働雇用省)
DOLE(Department of Labor and Employment)は、フィリピンにおける雇用と労働環境を規制・監督する中核的な政府機関です。国内外を問わず、フィリピン人労働者の権利保護と雇用の健全化を目的に活動しています。
労働条件に関するトラブルが発生した場合、フィリピン人労働者やその関係者はDOLEに対して異議申し立てや相談を行うことが可能です。とりわけ外国企業(外国人による実質経営を含む)との間で問題が起きた場合、DOLEは労働者保護の観点から企業に厳しい判断を下す傾向があります。
DMW(旧POEA:移民労働者省)
DMW(Department of Migrant Workers)は、かつてのPOEA(Philippine Overseas Employment Administration)を再編して2021年に設立された行政機関です。海外で働くフィリピン人の権利保護や雇用管理、送り出し制度の整備を担う中枢機関です。
DMWは、海外就労希望者を送り出す前に、就労先企業や雇用契約内容を厳密に審査します。日本の企業がフィリピン人を直接雇用する場合は、事前にDMWの承認を得ることが法的に義務付けられています。
また、海外就労送出しを許可されているのは、DMW(旧POEA)に認可された現地の送り出し機関(PRA)のみであり、それ以外の機関が送出を行うことは禁止されています。
MWO(旧POLO:移住労働者事務所)
MWO(Migrant Workers Office)はフィリピン共和国大使館移住労働者事務所のことで、DMW(旧POEA)およびDOLEの海外拠点(出先機関)として、各国のフィリピン大使館・領事館内に設置されている行政事務所です。以前はPOLO(Philippine Overseas Labor Office)と呼ばれていました。
日本国内では、東京の駐日フィリピン大使館および大阪のフィリピン総領事館にMWOが設置されており、現地でのJob Order(求人票)や雇用契約の認証・検証を行います。
企業がフィリピンから人材を受け入れるためには、まずこのMWOに対して必要書類を提出し、正式な承認(Verification)を得る必要があります。MWOは日本国内で唯一、フィリピン政府の海外就労制度に基づく実務を行う窓口として機能しています。
2. フィリピンではDMW認定エージェントを介さない「直接雇用」は原則禁止
海外の現地人材を採用する場合、通常は日本企業の担当者が現地に渡航してスカウトを行うか、もしくは現地の人材紹介エージェントを通じて採用活動を行うのが一般的です。
しかし、フィリピンでは2017年8月以降、DMW(旧POEA:フィリピン海外雇用庁)に認定されたエージェントを通さない「直接雇用」は原則として禁止されています。
これは、海外で就労するフィリピン人労働者を不当な労働環境から保護するために設けられた制度です。したがって、日本企業がフィリピン現地から人材を採用する場合には、必ずDMW認定の送り出し機関(PRA)を通じた手続きが必要となります。
直接雇用を検討している企業は、この点に十分注意しなければなりません。認可を受けていない形での採用は違法行為と見なされ、罰則や人材の出国停止などのリスクが生じる可能性があります。
3. DMW(旧POEA)認定エージェントを通じたフィリピン人雇用の手続き
DMW(旧POEA)認定エージェントとの契約~就労者来日までの流れをこちらで説明します。
①フィリピン在住のフィリピン人を雇用するための手続きフロー【DMW認定エージェント利用】
フィリピン現地から人材を採用する場合、日本の企業や監理団体などはDMW(旧POEA)認定の送り出し機関を通じ、以下のようなステップに従って手続きを進める必要があります。
このプロセスを理解し、順序通りに進めることが違法リスクの回避とスムーズな入国準備に直結します。
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✅手続き上の注意点:COE申請のタイミングに注意
在留資格認定証明書(COE)には発行から3か月間の有効期限があります。
そのため、フィリピン側でのMWO・DMWにおける手続きが完了してからCOE申請を行うことが、安全かつ効率的な流れとされています。
②日本に住むフィリピン人を雇用する際の注意点と必要な手続き
フィリピン人材を日本国内で雇用する場合でも、在留資格の種類によってはMWO(旧POLO)による手続きや審査が必要となります。とくに「技能実習」「特定技能」「技術・人文知識・国際業務」などの就労系在留資格を持つ人材を雇用する際には、以下の点に注意しましょう。
▶︎身分系在留資格の場合は例外もあり
すでに「永住者」「定住者」「日本人の配偶者等」などの身分に基づく在留資格を持つフィリピン人材であれば、MWO(旧POLO)の審査や手続きは原則不要です。これらの在留資格保持者は就労制限がなく、日本国内での雇用にあたって特別な出国許可や手続きは求められません。
▶︎就労系在留資格保持者は、原則MWO審査が必要
一方で、技能実習生や特定技能外国人、日本の人材派遣会社経由で雇用されている就労系在留資格保持者の場合、日本に住んでいるにもかかわらず、フィリピン政府の規定に基づきMWO(旧POLO)の認証手続きが必要です。
具体的には、次のような要件があります
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▶︎手続きを怠ると、フィリピン人労働者が出国できなくなる可能性も
このような制度に則らずに雇用した場合、たとえ在留資格を正しく取得していても、本人がフィリピンへ一時帰国した際にトラブルが発生することがあります。
たとえば、出国時にOEC(海外就労認定証)の提示を求められても取得していなければ、日本に再入国できないという深刻な事態になる可能性もあります。
そのため、日本に住んでいるフィリピン人であっても、海外在住者を新規に採用する場合と同じように、MWO(旧POLO)を通じたOEC取得手続きが必要です。
▶︎日本国内で在留資格を変更した場合も要注意
フィリピン人労働者が日本国内で在留資格を変更したケースでも、OECの取得にあたってはMWOの認証を受ける必要があります。この点を見落として手続きを省略してしまうと、労働者本人が不利益を被るだけでなく、企業側も制度違反と見なされる可能性があります。
▶︎正しい手続きは企業のコンプライアンス確保にもつながる
MWO(旧POLO)申請は、フィリピン政府が定めた法律に基づく義務であり、現地出国時には非常に厳しくチェックされます。手続きを怠った場合、企業の信頼性やブランドイメージに悪影響を与えるリスクも否定できません。
したがって、企業としては法令を遵守し、正当なルートを通じてフィリピン人材を受け入れることが極めて重要です。
▶︎国内在住者の雇用でも「海外就労扱い」に注意
日本在住のフィリピン人材であっても、就労系在留資格者を雇用する場合は、フィリピン国外への労働派遣(Overseas Employment)として扱われる点に注意が必要です。
MWOを通じた認証・OEC取得手続きを忘れずに行い、労働者の権利と企業のコンプライアンスを両立させた雇用管理を行いましょう。
4. 「直接雇用禁止の免除申請」が認められるケース
先に述べたように、フィリピン人を雇用する際には原則として、現地の認定エージェントを通す必要があり、企業が個人と直接雇用契約を結ぶことは禁止されています。
しかし、一定の条件を満たす場合に限り、「直接雇用禁止の免除申請」が認められるケースもあります。以下に主な条件を紹介しますが、最終的な判断はフィリピン政府の労働機関であるDMW(旧POEA)が行うため、必ず事前に確認するようにしてください。
直接雇用の免除が認められる主な条件
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直接雇用を希望する場合は、これらの要件に該当するかを早めに確認し、必要書類を整えて免除申請を行うことが重要です。少しでも不明点があれば、専門のサポート機関やエージェントに相談するのがおすすめです。
5. 【解説】フィリピン人の「直接雇用禁止免除申請」の流れ
フィリピン人を日本企業が直接雇用したい場合、原則として現地の認定エージェントを通す必要があります。しかし、特定の条件を満たせば「直接雇用禁止の免除申請」が可能です。
以下は、その免除申請を行う際の基本的な流れです。
■ 直接雇用禁止免除申請のステップ
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このように、直接雇用の免除申請には多くの手続きと厳格な審査が伴います。特に、業種や職種が免除対象かどうかの判断は、個別に行われるため、事前にMWOやDMWへ確認することが不可欠です。
なお、制度自体が例外的な扱いであるため、申請しても認められるケースは多くはありません。可能性がある場合でも、専門的な知識を持つ支援機関やコンサルタントと連携して進めることをおすすめします。
6. まとめ
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このように、フィリピン人を海外から直接雇用する際には、フィリピン独自の制度や手続きの流れを正しく理解することが重要です。手続きはやや複雑ではあるものの、国の制度によって厳格に管理されているため、雇用後のトラブルが起きにくいというメリットがあります。
また、制度の存在により違法ブローカーや非正規の人材仲介業者の関与も排除されやすくなっており、安全な雇用が期待できます。
ただし、日本企業側にとっては準備すべき書類や対応が多く、手続きが煩雑になるケースも少なくありません。そのため、フィリピン人材を受け入れる際は、事前に制度をしっかりと把握し、必要に応じて専門機関のサポートを活用することが大切です。
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