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外国人労働者の脱退一時金制度をやさしく解説

外国人労働者の帰国時に、年金保険料の一部が返ってくる「脱退一時金」。これは帰国後に働いた年数に応じて還付される制度ですが、その仕組みを企業側が理解し説明することで、加入への安心感につながります。本記事では、脱退一時金がどんな人に適用されるか、支給額がいくらになるのか、手続きの流れや注意点を含めて丁寧に解説。企業の労務担当者が把握しておくべきポイントを整理しました。

1. 「脱退一時金」とは?

「脱退一時金」とは、外国人労働者が日本で働いた後、帰国する際に、支払った年金(国民年金・厚生年金)の一部が払い戻される制度です。厚生年金では最大5年分(2021年改正まで3年)まで、国民年金でも支払った期間に応じて一部が返還されます。企業としては、この制度を正しく伝えることで、安心して社会保険に加入してもらいやすくなります。

2. 外国人労働者にも脱退一時金は適用される?

脱退一時金は、条件を満たせば外国人労働者にも適用されます。もともとこの制度は日本人向けではなく、日本に在留し年金保険料を納めていた外国人を対象に設けられたものです。

日本で一定期間年金保険料を支払った外国人が出国し、日本国内に住所を持たなくなった場合、その後再び日本に来るかどうか、または老齢年金を受給できる条件を満たせるかどうかは不確かです。そうした状況を考慮した救済措置が、脱退一時金制度です。

なお、支給要件のひとつとして「日本国籍を有していないこと」が明記されており、外国籍であることが制度利用の前提条件となっています。

3. 企業が外国人労働者に説明すべき理由とは

「外国人労働者が社会保険の加入を拒む」という相談は少なくありません。その背景には、給与から保険料が差し引かれ手取りが減ることへの抵抗感に加え、将来的に母国へ帰国する場合、支払った年金保険料が無駄になるのではないかという不安があります。

このような懸念に対して企業が説明すべきなのが「脱退一時金」です。脱退一時金とは、一定の条件を満たせば帰国後に年金保険料の一部が払い戻される制度であり、掛け捨てにはならないことを理解してもらうことができます。

実際にこの制度について説明すると、外国人労働者の多くは安心して社会保険へ加入する傾向があります。特に、モデルケースを示し概算の支給額を具体的な数字で提示すると、納得感が高まりやすいでしょう。企業としても、スムーズに保険加入を進めるために、脱退一時金の説明は大切な支援のひとつといえます。

また、社会保険料は労使折半ですが、脱退一時金は
本人が払った保険料部分のみが対象である点もきちんと伝えましょう。

4. 支給の条件と対象外になるケース

脱退一時金の取得条件と対象外になるケースをご説明します。

支給の条件

  • 日本国籍を持たない
  • 国民年金または厚生年金に6か月以上加入している
  • 老齢年金の受給資格(10年以上)がない
  • 日本に再び戻る予定がないこと
  • 帰国後2年以内に請求すること

これらを満たせば申請可能です。ただし、社会保障協定国出身者は要注意です。通算された加入期間で10年を超える場合は、一時金の対象外になるケースもあります。

参考:年金機構

支給対象外ケース

脱退一時金の支給対象外になるケースには以下があります。

  • 日本で10年以上年金に加入して老齢年金受給資格がある場合
  • 帰国後も日本に再入国する予定がある場合
  • 障害年金を受けたことがある場合
  • 社会保障協定により加入期間が通算されて10年を超える場合
  • 申請が出国から2年以上経過してしまった場合

企業は事前にこうした点を確認し、労働者にも納得してもらえるよう説明する必要があります。

5. 脱退一時金の手続き方法

手続きは、支給条件にあるとおり「社会保険の資格を喪失してから2年以内」であり、かつ「日本に住所を有していない」ことが前提となります。
そのため、外国人労働者が企業を退職し、日本を出国した後に請求手続きを行う流れになります。

具体的な手続きの進め方については、後述の 「提出する人・提出先・提出方法・提出時期」 および 「請求時に必要な書類」 の項目にて詳しく解説します。

提出する人・提出先・提出方法・提出時期

脱退一時金の請求手続きを行うのは、外国人労働者本人、または本人から委任を受けた代理人です。
請求者(本人または代理人)は、脱退一時金請求書と添付書類をそろえて、日本年金機構へ提出します。

提出方法は、郵送または窓口での提出が可能です。海外からの郵送も受け付けています。

また、請求には期限があり、社会保険の資格を喪失してから2年以内に手続きを完了しなければなりません。

必要書類の詳細については、後述の 「請求するときに必要な書類」 をご確認ください。

区分 内容
提出者 請求者(本人または代理人)
提出先 提出先は 日本年金機構本部または各共済組合となります。
どこに提出するかは、加入していた制度やその加入期間によって異なります。
なお、日本滞在中の年金加入が国民年金または厚生年金保険のみである場合には、日本年金機構に対して請求手続きを行ってください。
提出方法 郵送または電子申請。
ただし、旅行など就労以外の目的で日本に滞在していた場合には、年金事務所や街角の年金相談センターの窓口で直接提出 することもできます。
提出期限 短期滞在の外国人が日本の住所をなくして出国後2年以内

請求時に必要な書類

脱退一時金を請求する際には、大きく分けて「脱退一時金請求書」と「添付書類」の2種類が必要です。これらは原則として、外国人労働者ご本人が準備します。

1.脱退一時金請求書

脱退一時金請求書は日本語と外国語が併記された様式で、次の14か国語に対応しています。

英語/中国語/韓国語/ポルトガル語/スペイン語/インドネシア語/フィリピノ(タガログ)語/タイ語/ベトナム語/ミャンマー語/カンボジア語/ロシア語/ネパール語/モンゴル語

書式は日本年金機構の公式サイト「脱退一時金に関する手続きをおこなうとき」からダウンロードできるほか、「ねんきんダイヤル」に電話することで郵送を依頼できます。また、年金事務所や街角の年金相談センター、市区町村役場、自治体の国際化協会などでも入手可能です。

2.添付書類

請求には以下の書類を添付する必要があります。

書類名 確認事項
パスポート(氏名・生年月日・国籍・署名・在留資格ページの写し) 本人からの請求であることを確認
日本国内に住所がないことを証明する書類(住民票の除票、またはパスポートの出国日ページの写し等) 日本を出国していることを確認 ※帰国前に転出届を提出していれば不要。ただし、平成24年7月以前に被保険者でアルファベット氏名の管理がない場合は提出が必要
受取金融機関の情報(銀行発行の証明書、または請求書の「銀行の証明」欄に銀行の証明) 本人名義口座であることを確認 ※国内口座の場合はカタカナ名義必須。ゆうちょ銀行・一部ネット銀行は不可
基礎年金番号通知書または年金手帳等 年金加入期間を確認
委任状(代理人が手続きを行う場合) 正当な代理請求であることを確認
※日本年金機構の「代理人を通じて請求を行うことは可能か」をご確認ください。

3.企業が代理人となる場合

企業が代理人として請求するケースでは、退職前に本人から「脱退一時金請求書」と「添付書類」を受け取っておくことが重要です。退職後に書類を集めようとすると、本人と連絡が取れず手続きが進まないリスクがあります。代理人による手続きでは必ず「委任状」が必要となる点にも注意してください。

請求手続きにおける3つの留意点

脱退一時金を請求する際には、特に注意しておきたい点が3つあります。外国人労働者へ説明する際も、あわせて伝えるようにしましょう。

【3つの留意点】

  1. 脱退一時金を受け取ると、それ以前の年金加入期間はすべて「年金加入期間」としては扱われなくなります。将来、日本で老齢年金を受給する可能性があるかどうかを踏まえ、請求するかどうかを慎重に判断してください。
  2. 請求書が日本年金機構などに受理された時点で、日本に住所が残っている場合は脱退一時金を請求できません。そのため、まずは住んでいる市区町村で転出届を提出したうえで、請求手続きを行ってください。
  3. 支給条件として「日本国内に住所を有しないこと」が定められているため、請求書を提出するタイミングに注意が必要です。出国前に日本から提出する場合には、住民票の転出(予定)日以降に提出してください。郵送で提出する際も、転出(予定)日を過ぎてから日本年金機構等に届くように送付する必要があります。

また、市区町村に転出届を提出したうえで再入国許可(みなし再入国許可を含む)を取得して出国した場合には、脱退一時金を請求できます。しかし、転出届を提出せずに再入国許可を受けて出国した場合には、許可の有効期間中は国民年金の被保険者のままとなるため、その間は脱退一時金を請求できません。

社会保障協定を結んでいる国の外国人労働者に関する注意点

脱退一時金とあわせて理解しておきたい制度に「社会保障協定」があります。

社会保障協定とは、外国人労働者が母国と日本の両方で社会保障に二重加入することを防ぎ、さらに日本と相手国での年金加入期間を通算できるようにした制度です。つまり、日本で働いて支払った保険料は、母国での加入期間と同等に扱われます

社会保障協定を結んでいる国の外国人労働者は、年金保険料の受け取り方法として次の2つの選択肢があります。

  1. 帰国後、加入期間を通算して将来の老齢年金として受給する
  2. 日本出国後すぐに脱退一時金を受け取る

ここで注意すべき点は、脱退一時金を受給した場合、支給額の計算に用いられた期間(日本での就労期間)は母国の年金加入期間として通算されなくなることです。そのため、外国人労働者が母国の老齢年金として通算したいか、脱退一時金として受け取りたいかを事前に確認したうえで案内することが重要です。

【社会保障協定を結んでいる国(2025年8月時点)】

イギリス、ドイツ、ベルギー、フィンランド、スウェーデン、スロバキア、フランス、オランダ、スペイン、アイルランド、チェコ、ハンガリー、スイス、ルクセンブルク、ブラジル、アメリカ、カナダ、オーストリア、フィリピン、インド、韓国、中国
※イタリアは署名済みだが未発効、イギリス・韓国・中国との協定は「保険料二重負担防止」のみ

上記についての詳細は、日本年金機構のホームページの協定を結んでいる国との協定発効時期および対象となる社会保障制度でご確認ください。

脱退一時金の支給時期

脱退一時金は、提出した書類に不備や確認事項がなければ、請求書を受理してからおよそ4か月後に支払われます。支払いと同時に「脱退一時金支給決定通知書」も送付されます。

書類に不備がある場合は、支給額の決定や振込までに時間がかかるため、日本年金機構の案内内容を確認し、正確に請求手続きを行うことが重要です。

支給は日本円ではなく、支給対象国ごとの通貨(ドル、ユーロなど)で行われます。支給額の計算には、申請時点ではなく、支給決定月の平均為替レートが用いられます。振込は日本の銀行を経由して行われます。

6. 脱退一時金の支給額(厚生年金)計算方法

脱退一時金の金額は、国民年金と厚生年金でそれぞれ計算方法が異なります。ここでは、厚生年金に関する計算方法について説明します。

企業の担当者も、外国人労働者へ説明する場面があるため、内容を理解しておくと安心です。

なお、厚生年金の支給額を求める方法には、以下の2種類があります。

  1. 概算額を計算する方法(目安として金額を確認できる)
  2. 正確な金額を算出する方法(詳細に計算する場合)

脱退一時金の概算額の計算方法

企業が外国人労働者に脱退一時金の目安を示す場合は、概算額を用いるとわかりやすく説明できます。概算額の計算方法は以下の通りです。

【計算式】

過去の年収 × 社会保険加入年数 × 9% = 概算支給額

【具体例】

  • 月給:20万円
  • 年間賞与:40万円
  • 年収合計:280万円
  • 社会保険加入期間:3年

計算式:

280万円 × 3年 × 9% = 756,000円(概算支給額)

入社時点では年収が確定していないため、正確な支給額は算出できません。そのため、初回説明では概算額を提示し、あくまで目安であること、実際の支給額とは異なる可能性があることをあわせて伝えることが重要です。

2021年の制度改正:脱退一時金の支給上限が3年から5年に変更

脱退一時金の正確な支給額は、年金保険料の納付期間をもとに計算されます。以前は、支給対象となる期間の上限が3年に設定されており、3年以上保険料を納めても最大で3年分しか支給されませんでした。

しかし、2021年4月の法改正により、この支給上限が3年から5年に引き上げられました。これにより、年金保険料を納付した期間が5年までであれば、その全期間に応じた脱退一時金を受け取ることが可能となっています。

この改正は、特定技能1号の創設によって在留期間の最長が5年に設定されたことや、短期滞在の外国人の増加など、最近の状況変化を踏まえて見直されたものです。

脱退一時金の正確な支給額の計算方法については、次の「脱退一時金の正確な金額の計算方法」で詳しく解説します。

脱退一時金の正確な金額の計算方法

外国人労働者が退職する際に最終給与が確定すると、年収も確定します。この時点で初めて、脱退一時金の正確な金額を算出することが可能です。退職時に外国人労働者へ説明する際には、以下の計算方法を用いて金額を伝えるとわかりやすくなります。

計算式

被保険者期間の平均標準報酬額 × 支給率(保険料率 × 1/2 × 支給率計算に用いる数)

計算例

  • 給与:20万円
  • 賞与:年間40万円
  • 年収:280万円
  • 社会保険加入期間:3年

平均標準報酬額の算出

(標準報酬月額20万円 × 36カ月 + 標準賞与額40万円 × 3回) ÷ 36カ月 = 233,333円

支給額の算出

支給率:3.3(厚生年金保険料率18.3% × 1/2 × 支給率計算に用いる数36)

233,333円 × 3.3 = 770,000円

※支給額から所得税が控除されますが、還付申告を行うことで所得税は返還されます。
※支給率や支給率計算に用いる数の詳細は、日本年金機構のホームページをご確認ください。

7. 企業が押さえておきたい注意点

企業は、外国人労働者に対して脱退一時金の説明をする際、以下の点に注意して説明をおこないましょう。

支給申請の手続きは企業が行うのではなく、本人または代理人が行うものであることを伝えて理解してもらう

支給申請手続きは、請求者(本人または代理人)が行うものとなります。 企業が手続きするものではないことを、外国人労働者へ伝える必要があります。 外国人労働者が手続きを行うのは企業であると誤解している場合、手続きしないままとなり、後々トラブルとなる可能性があります。

脱退一時金を受け取ると、対象となった年金加入期間は加入していなかったものとして取り扱われる

先ほども少し触れましたが、社会保障協定によって年金加入期間の通算が認められる国の人の場合、脱退一時金を受けとると脱退一時金を請求する以前のすべての期間が年金加入期間ではなくなってしまいます。 帰国後に再来日する可能性が高いのであれば、受け取らないという選択肢もあります。
また、脱退一時金の支給を受けた後に、再来日して年金被保険者として保険料の支払いをし続けたことで、再度脱退一時金の支給条件を満たした場合には、2度目の来日後に帰国した際に、再度脱退一時金の支給を受けることができます。
母国の習慣や行事などで一時的に帰国をする際には、再来日することが想定されるのかどうかで、手続きを行うかどうかの検討が必要でしょう。

脱退一時金支給額の概算額を伝える場合には、実際の支給額と多少誤差があることを伝えること

外国人労働者に対して脱退一時金の説明をする時に、支給額の目安となるようにモデルケースとして、概算額について数字を提示して説明できますと、理解してもらいやすくなります。 ただし、ここで提示する金額はあくまでもモデルケースであり、実際の支払額とは異なることを伝えるようにしましょう。

外国人労働者に安心して働いてもらうために脱退一時金を説明しましょう

今回は脱退一時金について解説しました。

日本の社会情勢、特定技能外国人の増加など日本で働く外国人労働者は今後も増えていくことが見込まれます。外国人労働者の中には、将来的に母国へ帰国したい方もいれば、できるだけ長く日本で働きたい方もおり、それぞれ将来に向けた働き方の考え方が異なります。

いずれの場合でも、企業が脱退一時金について説明して支払った社会保険料が掛け捨てにならないことを理解してもらうことは、外国人労働者が安心して働く環境を作るうえで重要です。そのため、入社時にあらかじめ脱退一時金の制度について説明しておくことをおすすめします。

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