特定技能1号外国人を受け入れる企業には、日本での生活を支え、定着を促すための「生活オリエンテーション」の実施が義務付けられています。このオリエンテーションは、生活に関する基本知識から緊急時対応まで幅広く情報提供する内容で、実施時間は原則8時間以上が必要です。この記事では、目的や実施時間の目安、形式と言語の選び方、伝えるべき情報や運用上の注意点について、最新の制度要領に基づき丁寧に解説します。企業の支援体制を強化したい方にもおすすめです。
1. 義務的支援「生活オリエンテーション」の目的とは?
生活オリエンテーションは、特定技能1号外国人が日本で安心・安全に生活し、職場に適応するための支援であり、出入国在留管理庁による「支援計画」に含まれる義務的支援のひとつです。目的は、日本社会のルールや生活インフラ、制度の基本を理解させることにあります
2. 生活オリエンテーションの所要時間と基準
基本的な目安は8時間以上となり、これは外国人が十分に理解できるようになるための最低限の時間として入管も定めています。
※例外的に4時間以上でよいケース
技能実習2号修了者や留学生等が同一所属機関で継続して働き、生活環境に変化がない場合。ただし、4時間未満では不適切とみなされるため注意が必要です
時間配分は、一日で集中的に行っても、数日に分けて実施しても構いません。重要なのは、情報の理解が定着することです。
また、特定技能1号の外国人に対して、生活オリエンテーションをしなくても良いという例外はありません。
3. 実施形式と使用言語についてのポイント
■実施形式
対面、テレビ会議、録画動画など柔軟に対応可能です。ただし、オンラインや動画形式を用いる場合でも、受講者からの質問に即応できる対応体制が必須です。
■使用言語
特定技能1号の外国人に対して行う「生活オリエンテーション」は、本人が十分に理解できる言語で実施することが義務付けられています(出典:法務省「1号特定技能外国人支援に関する運用要領」)。
そのため、基本的には外国人の母国語(例:フィリピン人ならタガログ語など)で行うのが望ましいとされています。
日本語での実施が可能なケース
ただし、日本語能力試験(JLPT)N1またはN2を取得している外国人に限っては、日本語でのオリエンテーションでも理解できる可能性があります。
※N4レベルでは母国語対応が必要
特定技能1号の在留資格を取得するために必要な日本語能力は「N4以上」です。
N4のレベルは「ゆっくりとした日常会話が理解できる」程度であり、以下のような複雑な説明には不十分です。
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これらの内容は誤解がないように伝える必要があるため、原則として母国語で説明を行うことが重要です。
4. 特定技能外国人に提供すべき情報の内容
以下の6つの情報領域について、体系的に説明を行うことが求められます
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これらの内容は、生活の安全とトラブル防止に直結する重要事項です。
以下でそれぞれの項目を説明します。
4-1. 法令違反への対応:日本の違法行為例や罰則、法的保護について
特定技能などの在留資格を持つ外国人が法律に違反した場合、多くのケースで「退去強制(国外退去)」の対象となります。
この場合、本人は強制的に母国へ帰国させられ、企業もその外国人を雇用継続することはできなくなります。
そのため、受け入れ企業は外国人に対し、日本の法律やルールを正しく理解させることが非常に重要です。
違反例①:違法薬物の所持・売買
日本では、大麻や覚せい剤などの薬物は違法とされています。
所持・使用・売買のいずれも犯罪となり、退去強制処分の対象です。
一部の国では大麻が合法でも、日本国内では一切認められていません。
📝 注意点:
「自国では合法だったから大丈夫」では済まされません。
日本で働く以上、日本の法律を守る義務があることを、雇用前の段階から明確に説明しましょう。
🚫 違反例②:銃器や刀剣の携帯・所持
日本では、鉄砲・刃物・刀剣類の所持・携帯は原則として禁止されています。
これに違反すると、銃刀法違反として刑罰の対象になります。
📝 注意点:
「自国では護身用に持ち歩いていた」という理由も、日本では通用しません。
武器に該当するものは一切持たないことを強く伝えましょう。
4-2. 生活一般:金融機関や交通ルール、ゴミ分別などの日常ルール
特定技能外国人の多くは、日本での生活に不慣れです。日本では常識とされているルールやマナーも、母国では存在しないことが多く、トラブルの原因になることもあります。
生活オリエンテーションでは、以下のような項目について、本人が理解できる言語で丁寧に説明することが大切です。
金融機関(銀行・ATM)の利用方法
日本の金融機関の使い方は、多くの外国人にとって初めての経験です。
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🚦 交通ルールの基本
交通ルールの違いは、命に関わる事故や違反につながる可能性があります。
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🚌 交通機関の利用マナー・使い方
住んでいる地域によって使い方が異なるため、地域ごとに説明が必要です。
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🏠 日本の生活ルール・マナー
母国と異なる習慣を知らずにトラブルになることがあります。事前の丁寧な説明が必須です。
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🛒 生活必需品の購入方法
特定技能外国人にとって、どこで何を買えばよいかがわからないことも多くあります。
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こうした内容は、紙の資料・翻訳されたパンフレット・図解付きマニュアルなどを活用しながら説明すると効果的です。また、質問の時間を十分にとり、不明点を残さないようにしましょう。
4-3. 公的機関の手続き:転入届、在留カード更新、税・社会保険など
公的機関での各種手続きは、日本人でも難しい場合があります。特定技能外国人には、本人が理解できる言語で、丁寧に説明することが大切です。
📄 所属機関(受入れ機関)に関する届け出
「受入れ機関」とは、特定技能外国人を雇用する企業や団体のことです。
以下のような変更があった場合、14日以内に本人が出入国在留管理局へ届け出る必要があります。
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※手続きは特定技能外国人本人が行う必要があるため、忘れずに伝えましょう。
🏠 居住地の届け出
外国人も、日本人と同じように転入・転出などの届け出が必要です。
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💰 社会保険・税金に関する説明
日本の税金制度や社会保険制度を知らないことで、給与に関する誤解が生じやすいです。事前にしっかり説明しましょう。
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▶ 税金や保険料は、毎月の給与から天引きされる仕組みになっています。
▶ 「聞いていた給与と違う」というトラブルを防ぐためにも、天引き制度の存在をしっかり説明しましょう。
🆔 その他の行政手続き
日本で生活する上では、以下のような追加の手続きが必要になることもあります。
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これらの手続きも、外国人本人が行う必要があります。どこで・いつ・何を持って行けばよいのかを明確に案内しましょう。
📝 ポイントまとめ
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4-4. 医療・健康管理:医療機関の受診方法や保険使用、緊急時の対応
日本では、体調が悪いときやケガをしたときに利用する医療機関(病院・クリニック)がたくさんあります。ただし、医療機関にはそれぞれ専門の診療科(内科・外科・耳鼻科など)があり、症状に合った場所を選ぶ必要がありますので説明します。
■ 医療機関の探し方
医療機関を探すときは、次の方法を使います。
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▶ あらかじめ、住んでいる地域にある医療機関の情報を一覧で伝えるのも良い方法です。
■ 医療機関を利用するときの注意点
医療機関を利用するときは、次の点に注意することを伝えましょう。
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4-5. 支援体制に関する情報:相談窓口や対応スタッフの連絡先
支援に関する情報とは、特定技能外国人が困ったときに相談できる先や、助けを求められる窓口のことです。どのようにその情報にたどり着けるのかをきちんと説明しましょう。
支援を登録支援機関に任せている場合でも、企業が自ら対応している場合でも、困ったときにはすぐに助けが受けられる体制があることを、本人にしっかり伝えることが大切です。
登録支援機関に委託している場合
特定技能外国人への支援を登録支援機関に委託している場合、その支援機関が生活・労務支援などを担当します。
この場合、以下の情報を外国人本人に明確かつ確実に伝えておくことが求められます。
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支援担当者へは、直接相談することができるため、企業の担当者が不在のときや、母国語で相談したい場合などにも対応できます。
企業が自社で支援を行う場合
登録支援機関を利用せず、企業自身で全ての支援を行っている場合も同様に、特定技能外国人が困ったときに「誰に・どこに連絡すればよいか」をはっきりと伝えておく必要があります。
支援担当者の氏名や連絡先(電話・メール)を記載した案内を用意し、外国人がいつでも確認できるようにしておきましょう。
外国人本人が直接相談できる公的機関の情報も伝えましょう
企業や支援機関だけでなく、公的機関にも相談できる窓口があります。これらの機関は、特定技能外国人の生活や権利を守るために重要な役割を果たしています。
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これらの連絡先や所在地を、外国人本人に事前に案内しておくと、緊急時にも迅速な対応が可能になります。
支援情報は「見える化」しておくことが重要
支援に関する情報は、口頭で伝えるだけでなく、紙の資料やポスター、社内掲示板やLINEグループなどで見える化しておくことが大切です。
多言語対応や図表での説明など、相手の理解度に応じた工夫も必要です。
4-6. 防災・防犯・緊急時:災害時の避難方法や救急通報など
災害や事件・事故への備え
地震や台風などの自然災害が発生した際に慌てず行動できるよう、日頃からの備えが重要です。家具が倒れないように固定する、最低3日分の水や食料、防災リュックを用意するなど、非常時に困らないように準備しておきましょう。
また、事件や事故に巻き込まれないためには、防犯や法令に関する基本的な知識も必要です。たとえば、ドアや窓は必ず施錠する、空き地や畑に無断で立ち入らない、交通ルールを守るなど、安全に生活するためのルールを伝えることが大切です。
火災を防ぐために
火災の予防についても、特定技能外国人にわかりやすく説明しておく必要があります。タバコの後始末を徹底することや、ガスコンロ・ストーブの安全な使用方法、家の周りに可燃物を置かないことなど、日常の注意点をしっかり伝えましょう。また、万一に備えて、消火器の使い方を教えておくのも有効です。
災害情報の取得方法
地震や津波などの災害時には、正確な情報を早く入手することが非常に重要です。避難情報や気象情報などは、行政から提供される情報を通じて確認できます。ハザードマップや警戒レベルの見方、避難所への移動方法などを事前に共有しておきましょう。
▼災害関連の情報サイト
緊急時の連絡方法
万が一の事故や体調不良などの緊急時に備えて、連絡先の確認も重要です。
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ただし、軽いケガや症状で119番に通報するのは避けるよう、適切な判断についても伝えておきましょう。また、海での事故などが想定される場合は、海上保安庁への通報方法についても案内しておくと安心です。
5.注意点
実施後の対応と記録(確認書)について
確認書の作成・保管:実施後、「生活オリエンテーション確認書(参考様式5‑8号)」に受講者の署名を得て保存します。提出義務はありませんが、出入国在留管理庁からの確認時に備え、5年間程度保管します。
※委託時の対応:登録支援機関に委託した場合は、作成・保管も委託機関が行います
外国人の理解度には個人差があることを理解する
支援担当者は、特定技能外国人の日本の生活や制度に対する理解度が人によって異なることをまず認識する必要があります。
出入国在留管理庁の「1号特定技能外国人支援に関する運用要領」では、生活オリエンテーションは少なくとも8時間以上行うことが求められています。しかし、実際には日本のルールや仕組みを十分に理解するには、8時間では不十分な場合が多いのが現状です。
特に、日本に住み特定技能1号として働く外国人には、最低でも4時間以上の生活オリエンテーションが必要とされていますが、それでも理解が不十分になることは珍しくありません。
外国人の生活支援は、一度きりの説明で完了するものではなく、状況に応じて継続的に支援を行うことが重要です。この点をしっかりと踏まえて支援にあたりましょう。
6. 登録支援機関の活用メリット
生活オリエンテーションの実施は受け入れ機関自身が行うことも可能ですが、時間と手間がかかるため登録支援機関に委託をすることが可能です。
登録支援機関を活用することで、準備・実施・記録などの業務負担を軽減できます。また、多言語対応やフォローアップ支援もスムーズになります。
登録支援機関への委託が「義務」となるケース
過去2年以内に、中長期在留者(就労資格保有)の受入れや監理を適正に行った実績がない企業の場合、生活オリエンテーションを含むすべての支援を登録支援機関に委託する必要があります。このような場合は、必ず登録支援機関へ委託してください。
手間と時間がかかる業務のため、委託は現実的な選択肢
生活オリエンテーションは、外国人本人が理解できる言語で行う必要があり、さらに内容も多岐にわたるため、資料の準備、通訳の手配、対面・オンラインでの説明など、非常に手間と時間がかかる支援の一つです。
そのため、たとえ委託が義務でない場合でも、専門の登録支援機関に委託することが現実的な対応策となるケースが多く見られます。
委託のメリット
項目 | メリット |
言語対応 | 多言語対応の体制が整っている |
時間効率 | 企業の負担を大幅に削減できる |
法令対応 | 法務省の支援義務を確実に満たせる |
生活オリエンテーションを誰が、どのように行うかは、在留資格の審査にも関わる重要事項です。
自社で対応するか、登録支援機関に委託するかを早めに検討・判断しましょう。
必要に応じて、支援機関の選定や比較もお手伝いできます。
7. まとめ
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